一、
シルフが開けた穴の向こうには、宮の保管庫には存在しない魔道書や歴史書の類が保管されていた。
「これは……宝の山、って感じだな」
「その筋の人にとっては、ね……けど、黒幕がここで何かを研究していた可能性は高いよ」
勇樹の言葉に、ニコルがそう返すと、一冊のノートを手に取り、パラパラとめくり始めた。
何気なくそのノートの表紙を見ると、この部屋の持ち主の研究記録のようだということがわかる。
「何が書いてあるの?」
「……神の召喚、についてみたいだね」
リーネの質問に、ニコルはノートの一部をじっくりとにらみながら答える。
その返答を聞いた勇樹は呆れたようなため息をつき、彩は何を言っているのかが理解できていないのだろう、ポカンとした表情を浮かべている。
ノートを見ながら、ニコルは持ち主が何を研究し、見出そうとしていたのかを伝えた。
「……どうやら、本気で神を召喚しようとしていたらしいね」
それも、八百万の神や仏、あるいは救世主の類ではない。まして、歴史上の英雄を神として祭った「英霊」という存在でもない。
災いと災厄をもたらす神。宗教によってその呼び名は様々であるが、それらの存在は「悪魔」あるいは「邪神」という総称で統一され、認識されている。
「ただ、そいつは星辰がそろわないと呼び出せないらしいんだ」
「でも、呼び出そうとしている」
「うん……そのための研究レポートみたいだ」
ニコルはそう言いながら、勇樹にノートを手渡した。
ぱらぱらとめくっていくと、確かにニコルが話してくれた内容が記されている。そして、その最後のページには精霊とマナを利用した強制召喚の術式が記されていた。
「……なるほど、だから、か」
勇樹はノートを閉じ、机の上に置き、早々にこの一件を解決するため、部屋を後にした。
廊下に出ると、自分たちのものとは違う、コツコツという足音が聞こえてきた。
勇樹たちが音がした方向を見ると、そこには勇樹たちが着ている制服と同じデザインの服を着た集団がこちらに向かってきていた。
「……勇樹くん!」
ふと、集団の中から聞きなれた声が聞こえ、勇樹はそちらの方に目をやる。
そこには、ドリアードを伴った桜がいた。
「無事だったか……よかった……」
勇樹はほっとしたようなため息をつき、桜たちの方へと歩み寄った。勇樹の姿を確認したドリアードは、ぱたぱたと勇樹の方へと駆け寄ってきた。
勢いよく勇樹に飛びつくと、勇樹はそれをしっかりと受け止め、よしよしと頭をなでた。
その顔には、今までのように焦りで気を張っている状態ではなく、いつものように暖かな微笑みが浮かんでいた。
「おやおや、困りますね……」
ふと、その場にいた全員が凍りついた。
勇樹はドリアードを抱きかかえたまま、声のした方に振り向く。
そこには、自分たちに妖魔と戦う術を教えてくれる教官がいた。
しかし、勇樹たちはその人物を教官として認識していなかった。彼の、その目を見ればわかる。今、目の前にいる人物は、かつて自分たちを教えていた存在ではない。
狂気に身をゆだねた、倒すべき敵であることが。




