五、
勇樹が森の中に入り、教会を目指していると、いつの間に現れたのだろうか、ゴブリンたちが武器を構え、こちらに襲いかかってきた。
「……邪魔だ」
勇樹は低く、唸るようにそう呟き、襲いかかってきたゴブリンたちに拳を叩きこむ。
シルフの力は使っていない。いや、使えないのだ。
勇樹自身、自分がかなり焦っていることがわかっていた。心の揺れは、精霊の力を行使するうえで大きな障害となる。
桜たちと合流するまでは、おそらくシルフの力を借りることができないだろう。
むろん、シルフが自分で風を起こして勇樹を援護することはできるが、ゴブリンだけを風で飛ばすということができないため、援護しようにもできないのだ。
だが、勇樹の状況と彼自身の焦りに反して、ゴブリンたちは目の前の獲物に群がり、容赦なく襲いかかってきた。
「時間がないってのに!」
大量のゴブリンを相手にしながら、勇樹は叫ぶ。
腰ほどしかない大きさのゴブリンの顔面に、勇樹は顔面に裏拳を叩きつけたり、蹴りを入れたりして応戦している。
殴りつけられたゴブリンの顔面はつぶれ、体は吹き飛ばされ、地面に、木に叩きつけられる。
だが、いかんせん、数が多い。ゴブリンが持っている武器が、勇樹の足を、横腹をえぐる。えぐられた場所からは鮮血が飛び散る。
「いっだ!!」
あまりの痛さに、勇樹は思わず顔をゆがめる。疲労と傷の痛みが、そして傷からの流血が勇樹の集中力をそいでいく。
さすがにここまでか、と腹をくくった勇樹の目の前に光があふれた。
光がやむと、ゴブリンの群れは消し炭になっていた。
周囲を見渡すと、そこには彩がいた。いや、彩だけではない。リーネとニコルもそこにいた。
だが、その顔は穏やかなものではなかった。
「……悪かった……」
勇樹は近くの木にもたれながら、そっとつぶやくように謝った。そして、そのまま、気を失った。
ニコルはその様子を見て、そっとため息をついた。
勇樹が次に目を開けると、目の前にはニコルの頭が見えた。正確には、彼のつむじが見える位置が目に入った。
「……ん?なんでニコルのつむじが見えるんだ?」
「目、覚めた?」
思ったことが口に出たようだ。そして、勇樹の声を聞いて、ニコルが振り返り、にっこりと微笑んでいる。いや、目が笑っていない。どうやら、まだ怒っているようだ。
勇樹自身も理由はわかっているし、自分が悪いということも理解している。だが、ここで怒りを向けられて、おまけに宙づりにされながら移動させられていると言うのは、理不尽極まりない。
「……下ろしてくれないか?」
「君の体力が回復するまで、そのままでいてくれ」
「俺は宙づりにされる趣味は無いんだが?」
「私はけっこう好きだけどな~」
「……彩、頼むからお前の趣味は俺じゃなくて耕介にぶつけてくれ」
勇樹は表情こそ崩さなかったが、必死に口を挟んできた彩を説得した。
その光景を見て、リーネはくすくすと笑っている。
正直、笑いごとではない、と突っ込みを入れたい勇樹であったが、それをしても無駄であることは百も承知だったので、ただうなだれるだけだった。




