四、
にこやかな顔つきから一変、厳かな顔つきになったシルフは勇樹に自分が風で見聞きしたことを伝えはじめた。
シルフの話では、旧支配者を召喚しようとしているのは、勇樹の予想通り、召喚士の教官、片城のようだ。そして、彼がその生贄として見習い召喚士を拉致・監禁しているということも。
なぜ召喚士に限定しているのかはわからないが、これについては、シルフが一つの仮説を立てていた。
「普通、精霊を召喚するには霊力とマナが必要になるのはわかってるよね」
「あぁ、術者界隈では基本事項だな」
「あいつにしても、精霊王や神を呼び出すにしても、相応の霊力とマナが必要になるの」
相応の、というが精霊よりも上位の存在を召喚するとなると、人間一人の霊力とマナでは足りない。
だが、それをなすことのできる方法がある。それが、集団での召喚儀式だ。そして、その儀式には人間の生贄が必要になる。なぜなら、呼び出す存在が大きくなればなるほど、マナの純度を高める必要があるためだ。マナとは生命力そのものだ。純度の高いマナを得るなら、変な小細工をせずに、生命力を直接抜き出してしまえばいい。
そして、なにより……。
「精霊は言ってしまえば、純粋なマナの塊。それに触れる機会の多い召喚士のマナは精霊のそれに近づくことができるって考えたんだと思う」
それが、召喚士を生贄に選んだ理由なのかもしれない。
シルフの言葉に、勇樹は言葉を失った。驚愕したから、というわけではない。
精霊を生贄にしようとしたこと、そしてそれができない代替の手段として、人間を生贄にしようとしていることに怒りを覚えているようだ。
「……シルフ、桜はどこに行ったかわかるか?」
「校舎裏にある森。そこの中に建ってる教会に入っていったみたい」
「わかった……行こうか」
勇樹はそう言って、ふたたび教室へ戻った。
今日の授業はもうすべて終了している。ここからは自由時間、「どこで何をしていても、校則に違反していなければ問題の無い」時間だ。
勇樹は激しい殺気を必死で押さえながら、森へと向かっていった。
勇樹が森に到着したのとほぼ同時刻。
耕介は専門外の授業の補習を受けていた。
「……なんで、俺が、こんな……」
「ぼやいてないで、さっさと合格点採ってくれ」
補習を担当している教官はあきれ顔でため息をついた。
見習い剣士の耕介からしてみれば、本来、剣とそれにまつわる知識、実技演習以外の教科は不必要なものだ。しかし、魔術やあやかしに関する知識も身につけておかなければ、対処しきれない事態に陥る可能性がある。
だからこそ、こうして半ば無理やり、学術的な学科を受講させられていたのだ。
「もう……嫌だ」
耕介が泣きごとを呟きながら、窓の外を見る。
すると、そこには手甲を身につけた勇樹が森に向かって走っている姿が目に入った。
――あいつ、なんであんなところに行くんだ?
耕介は勇樹の背中を目で追いながら、そう思ったが、教官の拳が軽く、頭の上に乗りかかってきた。




