三、
桜の呼びかけに、監禁されていた見習い召喚士たちは、それぞれが得意とする属性に分かれ、何名かのグループを作り、精霊を一体でも召喚しようとしていた。
桜は樹の精霊を呼び出すグループの中に加わっていた。
「……果てなく続く大地に根付くもの、命はぐくむ場を守るものよ、我等の呼び声に応えよ……」
桜たちは幾度となく召喚呪文を唱え続けると、ようやく、足もとに魔法陣から放たれる光がともった。
このまま順調にいけば、樹木の精霊が召喚できるはずだ。いや、もうすでに魔法陣から木の精霊のマナが漏れ出ている。
桜は、優しく微笑み、優しく呼びかけるように精霊の名を口にした。
「いでよ、大樹の精霊ドリアード」
桜がその名を呼ぶと、魔法陣の中心からドリアードが現れた。彼女は呼び出されたと同時に、一直線に桜の所に駆け寄り、その胸に飛び込んでいった。
どうやら、呼び出されてもなかなか人間界に行くことができなかったので、桜を心配していたようだ。
「ごめんね、心配掛けて」
桜がそう言いながら頭をなでると、ドリアードはようやく落ち着きを取り戻し、桜から離れた。
周囲を見ると、炎まとう巨人や水の乙女、大地の小人などの大精霊の姿があった。
桜たちと同じように光で描かれた魔法陣があった。どうやら、他の精霊たちも呼び出しに応じてくれたようだ。
「……ドリアード、お願い。私たちこの部屋から出たいの」
「わかった!」
ドリアードが元気に返事を返すと、床に手をつけ、目を閉じ、むむむっ、とうなった。
「えーい!!」
その叫びと同時に、ドリアードの手が触れていた当たりから、突然、木の根が伸び、扉に向かって激突した。
その衝撃に耐えきれなかった扉は、吹き飛び、部屋と儀式の間をつないだ。
「ありがとう、ドリアード。まだ力を借りたいから、もう少し、私の近くにいてね」
「うん!」
満面の笑顔で答えると、ドリアードの姿はすっと薄くなり、緑色に光る球体がその場に現れた。その球体はゆらゆらと動き、桜の腰に取り付けられているポーチに吸い込まれていった。
「さぁ、みんな!」
桜がそう叫ぶと、見習い召喚士たちは各々の組が召喚した精霊を引き連れ、部屋から脱出した。
それが、宮に巣くった闇を払う狼煙となった。
全ての授業を終え、勇樹は校舎の屋上に来ていた。授業中に飛び立ったシルフから、何かわかったのかを聞くためだ。
彼女がはるか上空に飛び立ってしまったから、いち早く合流するためにもこの施設で最も高い場所に行く必要があったのだ。
勇樹が周囲を見渡すと、シルフの影は見えなかった。まだ上空にいるのか、それとも入れ違ってしまったのか。いずれにしても、ここで合流しなければ、事が始まらない。
勇樹はそっとため息をつくと、ポケットから木でできたホイッスルを取り出し、そっと息を送る。
ぽーっと、鳥が鳴くような音がしばらく響くと、勇樹の前に何かが飛んできた。
確認せずとも、勇樹にはそれがシルフであることがわかっていた。
「勇樹、お疲れ」
「そっちはどうだった?」
差し出された手のひらの上にシルフが腰かけ、勇樹はシルフが得た情報を聞き出そうとした。
シルフはそれまでの軽快な雰囲気から急変して、真剣な顔つきで勇樹を見つめた。
――それだけ、重要な情報ということか……
勇樹はシルフの放つ雰囲気から、なんとなくではあるが、事の重大性を把握した。




