二、
桜が自分の状況を把握できた頃、勇樹は授業があるにも関わらず、桜が教室にいないことに気づいた。
彼女の普段の生活態度は優等生並みだ。
授業をさぼる、という行為自体するはずがない。
「……シルフ、少し頼まれてくれないか?」
不安と同時に形容しがたい焦燥感を感じた勇樹は、お守り袋に入っているシルフに呼びかけた。
すると、彼女は二つ返事で了承し、何を頼みたいのか聞いてきた。
「召喚士の連中がここ最近、無断欠席が多くなってるみたいなんだ。少し、風に聞いてみてくれないか?」
「私が飛んで探した方が早くない?」
勇樹の頼みごとに、シルフは間髪いれずに聞き返した。シルフは風を統べる精霊、それゆえ、風の流れる場所であれば、たとえどれほど離れていても望んだ場所の光景をのぞき見ることができる。
だが、人探しならば、シルフが直接探した方が、かえって早い場合がある。
それはわかっているのだが、勇樹にはそれをしてはいけない、という予感があった。
「……なぜかはわからないけど、それをやっちゃいけないって気がするんだ」
「……わかった。それなら、勇樹の言うことを信じるよ」
シルフはそう言うと、窓を出て屋上の方へと飛んでいった。勇樹も途中まで見送ったが、どうやら目的地は屋上ではないようだ。
ずっとまっすぐ、はるか上空に飛んで行っている。
――そんなに高いところの方が都合がいいのだろうか……
勇樹はそっとため息をついて、自分の席に戻った。
その頃、桜は目を覚ました見習い召喚士と協力して、何とか両手足の拘束を解いた。拘束に使われているものが縄であったことが幸いしたようだ。両手の自由を取り戻すと、桜たちは自分の両足を縛っている縄をほどき、他の召喚士を救出し、何とか部屋を出ようとしていた。
「……」
桜は意識を集中させ、何とか精霊を呼び出そうと試みた。
だが、それでも呼び出すことができたのは意識を持たない微精霊が数体程度だった。
「やっぱりだめか……」
「なら、ここにいる全員で一体、召喚してみるっていうのはどうかな?」
桜が精霊を召喚し、この部屋から脱出しようと考えていることを理解したのだろうか。両手の拘束を解くことに協力してくれた見習い召喚士が、そう提案してきた。
召喚できる精霊は、召喚主の力量により左右されるというのが術者の間では常識となっている。そのため、四大精霊を一柱でも呼び出すことができる人間は「天才」と呼ばれるのだ。
だが、四大精霊を呼び出すことができない召喚士でも、彼らを呼び出すことが可能な方法が一つだけある。
それが、複数人による召喚だ。精霊を呼び出すということは、要するに精霊をこちら側の世界に引っ張り出すことと同じだ。一人で召喚する場合、一人分の力でしか精霊を引っ張り上げることができない。だが、召喚主が複数いる場合、その人数分だけの力で引っ張り上げることになるため、より上位ランクの精霊を呼び出すことができると言うことになる。
あくまで仮定の話だが、現在、召喚に応じないということは、一人分の力では人間界に引っ張り出せない、ということなのだから、何人かと一緒に召喚術を行使すれば、あるいは召喚できるかもしれない、ということらしい。
「……試してみる価値はあると思う」
桜の一言は、提案してきた召喚士だけでなく、結果として、周りの召喚士を勇気づけることになった。




