六、
勇樹が宮に保管されている、数多くの古い書物の中から、「旧支配者」「大いなるもの」という二つの言葉に関連するであろう書物を探していた。
しかし、この二つの言葉はいずれもあだ名のようなものであり、本来の名前ではないため、関係していると思われる文献や言い回しが見つからない。
「……やっぱ、シルフに聞いた方が早いんだろうか……」
勇樹は半ばあきらめて、一番やりたくない方法をどのように成功させようか考えていた。
――シルフのご機嫌取りを上手くやる必要があるかな……あとは……
勇樹がそんなことを考えていると、後ろから勇樹の肩を叩くものがあった。
ふりむくと、そこには見習い魔女の彩と見習いエクソシストのニコルが何やら深刻そうな顔をしてそこにいた。
「……どうしたんだ?二人とも」
「君が「旧支配者」という存在について調べているって、耕介から聞いてね」
「関係ありそうな文献、集めてきたのよ」
そう言うと、二人は勇樹の目の前に様々な種類の書物を置いた。背表紙を見れば、それが聖書や魔道書の類であることがよくわかる。そして、その中には、術者ならば一度は耳にしたことがあるであろう、かの悪名高き魔道書『ネクロノミコン』も存在していた。
「……おいおい、『エイボンの書』に『無名祭祀書』、それに『ネクロノミコン』って……お前ら、「旧支配者」ってのがどんな存在なのか、知ってるんじゃないのか?」
『ネクロノミコン』には触れたくない、と言わんばかりの顔をして、勇樹は二人に問いかけた。
「……知っていることには知っている。けれども、君の目で確かめるべきなんだよ、あれについては」
勇樹の質問にニコルはそっけなく答え、その場を立ち去った。ニコルの後を追うように、彩も、それじゃ頑張ってね、と言ってその場を立ち去る。表情には出していなかったが、二人とも、「旧支配者」という言葉だけではない、存在そのものを忌み嫌っているような感じだ。
――おいおい……どんな奴なんだよ、旧支配者ってのは……
普段、そっけない態度を取ることなく人と接するニコルの様子を見て、勇樹はますます、これ以上知ってはいけないのではないだろうか、という気持ちになってしまう。
だが、知らなければ、今回の件に太刀打ちすることはできない。何より、これが勇樹自身の「対価」なのだ。
ここで逃げたら、あとでどのような仕打ちにあうかわからない。それだけ、「等価交換」は絶対的な秩序なのだ。
「……よしっ」
勇樹は気合を入れると、最も触れたくはなかった魔道書である『ネクロノミコン』を手に取り、そのページを一枚一枚めくり始めた。




