三、
「……シルフ?」
勇樹がシルフに声をかけると、シルフは一瞬、びくりと体を震わせた。
どうやら、そうとうおびえていたようだ。
そっと、勇樹はシルフの頭を人差し指でなで、落ち着かせようとした。頭をなでてもらう、という感覚が初めてなのか、シルフの顔が少しばかり紅くなっている。
「……おそらく、召喚を止めれば精霊たちも、今まで通り召喚術に応えてくれるはずだ……」
それでも、旧支配者と呼ばれた存在がこの世界に顕現しない可能性が完全に費えるわけではない。そのことは了承してくれ。
護は勇樹にそう伝えると、すっと立ち上がり、その場を離れようとした。
だが、ふと彼は立ち止まり、勇樹の方に振り向いた。
「わかっているな?後は、君たちの仕事だ」
「……わかっている。そういう契約だったからな」
勇樹は立ち上がりながら護の言葉に応える。
今回、起きている異常事態、それの対処に護の力は借りない。勇樹自身の手で解決すること、それが護に占いを行ってもらうことへの対価だ。
「……だが、この占いを見る限り、おそらく召喚者を止めるだけでは済まないだろうな……」
「召喚を止めても、何かまだ起きるってことか?」
「……そういうことだ」
護は勇樹の問いかけにそう答え、だから、と言って言葉をつづけた。
「仮に、俺たちと君たちの道が交わった時は、力を貸そう」
それこそ、全力でな。
護はそう言うと、不敵な微笑みを浮かべると、突然吹いてきた桜の嵐に巻き込まれ、消えていった。
それと同時に、勇樹の周囲にも風が巻き起こり、視界を桜の花びらが埋めていった。
勇樹が目を開けると、自分の部屋の天井が見えた。
「……どうにも、なれないな……」
夢渡りなんて、そうそうできるわけではないから、当たり前と言えば当たり前か。
心のうちでそう呟き、そっと起き上る。ふと、自分の枕元に四角錐を二つ合わせたような形をした翡翠色の宝玉があるのが目に入る。
昨夜、精霊が召喚できない以上、今、召喚された状態になっているシルフを送還するのは、今後、勇樹自身の行動に制限を設けることになってしまうという、シルフ自身の判断から少しでも人間界に長くとどまれるよう、自分の休息場所として、教官から半ば無理やり、この宝玉を借りてきたのだ。
もっとも、召喚士の教官もこの状況は、召喚士だけではなく、精霊拳士の力も半減させることになるということを理解ていたため、あっさりと貸し出してくれたのだから、大精霊シルフの頼みでなくても貸してくれたのかもしれない。
そこはそれ、シルフの説得のおかげと言うことにしようと心に決めていた勇樹は、宝玉をお守り袋の中に入れ、首に下げた。
そして、目が覚めたときに気づいたもう一つのこと。いつの間にか握られていた、一枚の封筒の中身を確認する。
「……夢渡りで手渡されたものって、夢から戻っても手に入るのな……」
勇樹は奇妙なことに感心して、封筒の中を覗き込んだ。




