二、
実習を終え、森を抜けると一人の教官の前に人ゴミができていた。よくよく見ると、桜と同じく、召喚術を行使する術者たちが、召喚士の教官に詰め寄っているようだ。
「……やっぱり、他の奴らも同じだったようだな……」
勇樹はその光景を目にし、ぽつりとつぶやく。
そして同時に、早く護から何かしらのコンタクトがないだろうか、とも思っていた。どうにも、事態の動きが急すぎてついてこれない。
何より、一度、帰還させられたら人間界に戻れない可能性があるためだろうか、シルフが勇樹の手甲から出ていく気配がない。
――それだけ、事態が深刻化しているってことか……
勇樹は周囲にいる耕介やリーネに悟られないよう、そっとため息をついた。
その夜。
ベットに入り、目を閉じていたはずの勇樹の眼には、満天の星空と桜の花びらが舞い降りる光景が写っていた。
この光景は、一度目にしている。同い年くらいの少年、護と名乗っていた陰陽師と出会ったときの空間と同じだ。
「……夢、か」
「ようこそ。我が夢の世界へ」
勇樹のつぶやきに答えるかのように、後ろから少年の声が響いてきた。
振り向くと、そこには白い単衣を身にまとった護がいた。
「……今日は、客人が多いな」
「え?」
護の視線に気づき、勇樹は自分の肩を見る。そこには、いつの間にそうしていたのだろうか、シルフが勇樹の肩に座っていた。
「シルフ。いつからそこに?」
「さっきからいたけど、全然気づかないんだもん。勇樹ってば鈍感なんだから~」
鈍感とか、そういう問題ではないのではないだろうか。
何を言われるかわかったものではないから、心のうちでそう呟き、勇樹は護に促されるがまま、席に座った。
護も席に座り、一枚の封筒を差し出した。
「……これは?」
「依頼されていたもの、といえばいいかな」
どうやら、この封筒の中に、占ってもらったことの詳細が書かれている紙が入っているのだろう。
ちらりと勇樹は護の顔を見たが、そこには、以前出会ったときのような穏やかだが厳かな雰囲気を感じさせる顔つきではなく、明らかに動揺や焦りのような表情が見えた。
「……やはり、かなりまずい状況ですか?」
「正直に言えば、かなりどころではないな……ものすごく、といったところだ」
護はそっとため息をついて、続けた。
「その中にも書いたが、精霊の召喚が遅れているのは、誰だかわからんが「旧支配者」と呼ばれる存在を呼び出そうとしていることが原因らしい」
旧支配者。
その言葉に、なぜか勇樹は恐怖と嫌悪を覚えた。
唱えてはいけない名前、というものはこの世界にはいくつもある。それは総じて、その名を持つものに対する恐れや畏怖の念が込められているためだ。
だが、今回のこれは違う。
名前を唱えたわけではないのに、魂の奥底から、そう、本能と言える部分から感じるこの嫌悪感は、名前を唱えてはいけないという次元ではない。存在そのものを「知ってはいけない」存在なのだろう。
そして、それは勇樹と護よりはるかに長い時間を生きてきたシルフが、年端もいかない少女のようにおびえる様を見ればわかることだった。




