一、
ドリアードが召喚に応じない。その事実に召喚主である桜はもちろんのこと、この現象の兆候となりえる事実を知っていた勇樹自身も驚いていた。ここまで事態が進行していた、ということもそうなのだが、召喚速度が遅れるだけで、「召喚ができない」という事態にまで発展しないだろうと、どこか楽観的に考えていたこともあったからだ。
「桜はしばらくこの中に……まだシルフが力を貸してくれているから大丈夫だ」
勇樹は桜にそう言うと、風の壁に向かって走り、そのまま通り抜けていった。
壁を抜けた勇樹の目に入ったのは、身動きのできない土蜘蛛の首を切り落としている耕介の姿と、何かの呪文を詠唱し続けているリーネの姿だった。
どうやら、勇樹と桜が風の結界の中にいた間、リーネの術で土蜘蛛を縛り、耕介が攻撃をする作戦を取ったようだ。勇樹が、もしかしたら自分はこの場にいなくてもよかったのではないだろうか、という考えを持ってしまうほど、二人の連携は完璧なものだった。
そうこうしているうちに、全ての土蜘蛛が討伐され、それを確認した勇樹は指を鳴らし、竜巻を止めた。
「おい、勇樹。どうしたんだよ、いきなり」
「……なにかあったの?」
耕介とリーネが同時に問いかけてきたことに一瞬動揺したが、すぐに気を取り直して、勇樹は桜が精霊召喚が不可能になったことを話した。
勇樹からそのことについて話は聞いていたので、二人とも大して動揺はしなかったが、それでもやはり驚きはしたようだ。普段ならば、切り返すであろう耕介がそれをしていないのがその証拠だ。
「……たぶん、桜が召喚できないということは他の召喚士もだめなんだろうな……」
土蜘蛛の討伐も終わったから、早く合流地点に戻って、教官にこの事を伝えなきゃな。
勇樹のその一言に賛成したのか、誰からとなしに今まで来た道を戻り始めた。
その最後尾には、桜がいた。
「……桜」
「大丈夫……大丈夫だよ」
勇樹に声をかけられた桜は、微笑みながらそう答えた。しかし、その微笑みは無理をしているときにしているものだということは、勇樹にはわかっていた。
だが、今のこの状況で、彼女を責めても何にもならないことは、勇樹もわかっていた。だからこそ、それについては何も言わず、ただ一言だけ、あまり気に病むな、とだけしか言わなかった。いや、言えなかった。




