第8話 クソチート(レオン視点)
……。
まだか?
ヒナのバカ……ケイタに好きな女がいるかどうか聞くだけだってのに、何時間待たせるつもりだよ。
おっ。出てきた。
ケイタとヒナはいつも通り……。いや、いつもよりもなんだか仲が良さそうに帰宅していくな。奴らの後ろ姿を見るに、どうやらヒナとの賭けに勝ったのは俺のようだ。
ケイタがヒナを好きだなんてのは、この教室にいる四十人に聞けば、三十八人が「知っている」と答えるだろう。残りの二人は当事者のバカ共だ。
だが、ヒナの方はよくわからん。ケイタのことは『ただの幼馴染だよ〜』と言い張るし、彼氏だって、できたり別れたりを繰り返している。俺の知っているだけでも四人は彼氏の顔が変わっている。大体四半期に一回か。
……深夜アニメかよ。
とにかく、カメラを回収しよう。
俺の勝利を確定させなければ、壊されたゲーム機の代金を請求できない。「体で払え」なんて言ったのは冗談だったが、別にそれはそれで構わない。
ヒナはバカだが、明るい性格で見た目は可愛いから、割と男子に人気がある。彼氏だっていたりいなかったりを繰り返していれば、それなりにやることはヤっているはずだ。うちのクラスで大っぴらにそんな話をする奴はいないが、実際ヒナは『男関係が派手だ』なんて噂も流れているしな。
そんなヒナがまぁ、俺のチャンネルに出てくれると言うのであれば、破壊されたゲーム機の実況以上の効果が見込めるだろう。それだけじゃねえ。場合によっては共同作業を進める中で愛が芽生えてムフフなことがあってもなんらおかしくはない。
それはそれで悪く無いんじゃないか? これまで彼女はいても、学生らしく清らかな交際しかしてこなかった俺には、十分な報酬といえるだろう。何せ本件に関して、俺は被害者だ。いずれにせよゲーム機の落とし前をつけてもらう必要はある。
どれどれ、ちゃんと映ってるかな?
——ピッ(再生)
『ケイタってさ』
『ん?』
『好きな人いないの?』
『……どうだろうな』
『また適当なこと言ってー』
『手が止まってるぞ』
『これ、詰んでる?』
『詰んでるな』
——プッ(停止)
映っている。ケイタの顔はしっかりと映ってるし、音も問題ない。最高の画角に設置されたカメラにも関わらず、肝心の演者が終わってやがる。
ケイタのやつ……。詰んでいるのはお前の頭だろ! 愛を語るのであれば、これ以上ないチャンスだというのに『どうだかな』だと? イカれてやがる。
俺だったらこんな降って湧いたチャンスを逃すような真似はしねえぞ。 『好きだ! 人生のパートナーになってくれっ!』そんな甘いセリフをぶち込んでそのままゴールインだ。
……。
窓から差し込む夕陽のせいか、それとも照れているのかはわからないが、普段無表情な男のくせに、頬が軽く赤らんでいる。
くそっ。煮え切らないやつだ。お前が漢を見せねえと俺のゲーム機が戻ってこねえんだよっ! さっさと腹を括りやがれ!
将棋の話はどうでもいい。
がんばれケイタ。まだチャンスはある。
俺にどうか逆転のチャンスをくれっ!
——ピッ(再生)
『もー! なんで飛車角落ちでこうなるかなー?』
『まずは囲いを覚えないとな』
『ヒナこそ、バスケ部の彼氏とはどうなんだ?』
『そんなのとっくに別れたよ〜』
『そうか。今回も早いな』
『言い方〜! そんで、ケイタはどうなの?』
『……内緒だ』
『……』
——プッ(停止)
クソがヨォぉぉぉ! 何が『……内緒だ』だ、カッコつけやがってっ! 飛車角落ちなのはテメーの度胸じゃねえか! なんでそんな愛おしそうな目でヒナを見つめているくせに、「好きだ」の一言が出てこねえんだっ!
がんばれっ! がんばれケイタ! くそっ……もどかしすぎるっ!
お前の恋路はどうでもいい……とにかく賭けに勝たせてくれっ! その後に振られるのは好きにしろ! だから頼む……勇気を出してくれっ!
——ピッ(再生)
『どうした?』
『じゃあさ、私と付き合わない?』
『へ?』
——プッ(停止)
???
へ?
どういうことだ?
——ピッ(再生)
『じゃあさ、私と付き合わない?』
『へ?』
『好き……って言ってるの』
『マジか……』
——プッ(停止)
???
どういうことだ? ヒナのやつ……まさかっ! くそっやられたっ! この手があったか……。
うわー。あのバカ、禁じ手だろそれは……。
——ピッ(再生)
『ケイタはどうなの!』
『……俺もヒナが好きだ。本当はずっと……初めて会った時から……』
『……!?』
『ごめんな』
『何がごめんなの?』
『いや、ヒナから言わせちゃって……』
——プッ(停止)
……。
最悪だ……。
あのバカ女、クソチートを使いやがった。
俺たちが賭けたのは「《《ケイタから》》告白するかどうか」だ。ヒナから「好きだ」と言っちまえば、その後ケイタが何を言おうがヒナに敗北はねえ。
バカのくせに、考えやがったな……。
くそっ。「ケイタがヒナのことを好きかどうか」の時点で止めておけば俺の勝ちだったのに、くだらないミスをした。
俺の五万円……。
俺のゲーム機……
俺の動画チャンネル……。
……。
しかし、ヒナもひどい女だな。
散々「ケイタはただの幼馴染で、恋愛感情はないよぉ〜♪」などと言い続けていたのに、賭けに勝ちたい一心で、ケイタの純情を弄ぶなんてよ。
……。
もう一回見てみるか……。
——ピッ(再生)
『じゃあさ、私と付き合わない?』
『へ?』
『好き……って言ってるの』
『マジか……』
——プッ(停止)
……。
男を取っ替え引っ替えとは聞いていたが……。まさか、あんなに自分を溺愛している幼馴染までをも毒牙にかけるとは。女ってのは怖えな。
ケイタもケイタだ。こんなボケ女を好きになるなんてどうかしてるぜ。幼馴染ってのは恐ろしいもんだな。完全に洗脳されてやがる。
まったく。可哀想なやつだ。こんなアホヅラを晒して喜んでやがる。
……。
しかし、ケイタのアホヅラ……。
おもしれーな。
完全に浮かれてんじゃねーか。
——ピッ(再生)
『……俺もヒナが好きだ。本当はずっと……初めて会った時から……』
——プッ(停止)
こんな真面目な顔して『俺もヒナが好きだ!』か。
カメラに映っているとも知らずになぁ。
……。
これは取れ高、抜群だなぁ。
……。
良いことを思いついてしまったなぁ。
念の為に設置しておいた残り三台のカメラを回収して、帰路に着く。
これは……イケるぞ。
◇
「ごちそうさま」
「レオン。デザートはいらないの? 梨剥いたけど」
「後で食うから冷蔵庫にしまっといてくれる?」
「はーい」
たしかに甘く熟した十月の梨は美味しいが、今はそれどころじゃねえ。
チート野郎のヒナとの賭けは負けたが、奴は五万円のゲーム機以上に価値のあるものを残していった。
この動画だ。
——夕陽が差しこむ放課後の教室
——ビジュアルの良い男女が将棋を指しながら恋バナをしている不思議な状況
——告白
——俺もヒナが好きだ!
……。
絶対にバズるっ!
動画サイトで勝ち抜くには、まずタイトルとサムネイルで視聴者の目を引くこと。クリックされたら冒頭の五秒で心を掴み、最後まで見てもらう。
継続的な更新も大事だが、それだけじゃ足りない。一発ドデカくヒットさせて、関連動画やおすすめ欄に乗ることによる爆発的な拡散、いわゆるバイラルが必要だ。
もちろん、そんなことは俺だって知っている。サムネイルの研究もしているし、流行りの企画だって欠かさずチェックしている。編集技術もそこらの素人には負けない自信がある。
それなのに俺のチャンネルが鳴かず飛ばずなのは、やはりネタが弱いからだ。動画制作の技術があろうと、根本的に面白くないものは淘汰されていく。だからこそ、エンタメの世界は最高なんだが、だいぶ遠回りしちまった。
ガキの頃から貯めておいたお年玉と、居酒屋のバイトで稼いだ金を動画編集ソフトやパソコンにつかっちまったのはいい。必要な投資だったからな。
だが、クソみたいな情報商材屋のオンラインサロンに入会したのは失敗だった。仲間同士で徒党を組んで再生数や評価値を操作する。ありゃぁ、エンターテイメントに対する冒涜だ。
やっとの思いでそんなバカな界隈から抜け出し、再び貯めた金でようやく手に入れた最新ゲーム機。あれの実況かなんかができれば、ワンチャンあるかと思った矢先にこれだ……。
中学まではなんでも上手く行った。勉強も、部活のサッカーも、恋も……。だが、動画の再生数だけは一向に伸びやしねえ。そのゲーム機をヒナに踏み潰された時、『俺は動画配信の神に嫌われているんだ』と、この世界から足を洗おうと思っていたが……。
どうやら神は俺を見捨てていなかったようだ。
——ピッ(再生)
『……俺もヒナが好きだ!』
——プッ(停止)
この顔……この顔でカメラの存在を知らないってのが最高だ。
何度見ても面白え。
この告白動画に俺の編集技術が加われば、鬼に金棒だ。
確実にバズらせられる。
よし。そうと決まれば、早速編集だ!
まずはヒナの告白だ……。ここは下手にいじらない。二人を収めた引きの映像から、ヒナの表情を捉えたカメラに切り替える。「私と付き合わない?」の直後に一拍の無音。
続くケイタの「マジか……」でカメラを切り替え、あいつの間抜けな表情をアップにする。ここも余計な効果音はいらない。「俺もヒナが好きだ。本当はずっと……」と続く声をそのまま流し、「初めて会った時から……」の直後に、控えめな効果音を一つ。
最後は少し長めにケイタの照れ笑いを映して、すっと暗転。タイトルは……『告白に浮かれるケイタ(仮)』。何でもかんでも足し算するのは素人の仕事。素材が良ければ、余計な味付けなんて必要ねーんだよ。
ンンンー。しかし、このタイトルは味気ないな。
……。
『あれはただの幼馴染だよって、いつも言ってるじゃん』
ヒナのセリフを思い出す。
あいつは、特にケイタに気があるわけでもねーのに、賭けに勝ちたいあまり、チートで付き合おうなんて言ってよぉ……。とんでもねー女だ。男の純情を弄びやがって。
どうせまた数ヶ月で別れたり付き合ったりを繰り返すんだろうな。
だーから『佐伯陽菜は男好き』なんて噂が流れるんだよ。
それなら……。
『嘘告に浮かれるケイタ氏』なんてのはどうだ?
ドッキリとか嘘告ってのは流行り廃りのないジャンルだし、とりあえずタイトルに入れておけみたいな動画も少なくはない。
もう一押し欲しいな。
『嘘告に浮かれるケイタ氏 〜 俺もヒナが好きだ!』
やべえ。完璧だ。自分の才能が……怖い。
これは勝ち確だろ〜。
……よし。
あとは市場の反応を見て、最終調整かな。
これだけの素材……いきなりサイトに動画をアップして、滑ってしまうのは勿体無い。これまでの苦労が水の泡だ。
ミニマムマーケットで反応を確認しつつ微調整を加えて、本番環境に投下。
このプランで行こう。
まずはクラスのグループチャットだ。四十人程度の小さなグループだが、身内ネタだし、当然ウケはするだろう。一旦はそこで自信をつけつつ、編集に関するフィードバックをもらえればとりあえず合格だ。
続いて、中学校の同期チャット。こっちは二百人程度のグループだ。同じ高校に来た奴もいるが、大体のヤツはヒナもケイタも知らない。ここがおそらく本番環境に対するミニマムだろう。パーソナリティを知らないケイタの反応を見て、こいつらが面白いと思えれば、あとは県境を越えて、国境を越えて、世界に広がっていく。
我ながら完璧な計画だ。
よし!
伝説の幕開けだ。
——ポチッ(投稿)
『嘘告に浮かれるケイタ氏 〜 俺もヒナが好きだっ!』
さて、渾身の動画の反応はどうだ!
——ピコン
——ピコン
——ピコン
お、早速通知が!
『俺もヒナが好きだっ![キリッとした顔]』
『めっちゃ本気にしてるwww』
『ニヤケすぎだろ』
おおお! 内村に北野、それから出川から早速反応が!
いいぞ。この調子だ。
[怒った猫のスタンプ]
ミレイ! 普段グループチャットに顔を出さないやつまでリアクションをしてきた。幸先良さそうだ。
『何やってんだよ』
ん? マサヒロ。こいつも珍しいな。
『ケイタが面白かったから、編集頑張ったw』
『全然面白くねーんだけど』
『冗談じゃん』
『ガキかよ』
マサヒロ怒ってんのか? 笑いのセンスがねーなぁ。これだからガリ勉は困るぜ。ガキはそっちじゃねーか。
『は? ガキはそっちだろ』
『クソが。消せよ』
『は? なにキレてんの? 意味わかんな』
ガリ勉のマサヒロがキレ散らかしている。
めんどくせーな。
ユーモアのセンスも勉強しとけよ。
だりぃなあ。
◇
……どうしてこうなった。
ヒナからの電話に折り返すと、奴は涙声で発狂していた。
はぁ……。
マサヒロは喧嘩売ってくるし、出川たちはめっちゃ悪ノリしてるし、ミレイは訳わかんねーし……。
マサヒロがあんまりブチギレてるもんだから、俺も引っ込みがつかなくなっちまったな。いやしかし、さすがにキレすぎだろ。ガリ勉のくせに。
カオス極まるグループチャットは、ケイタ本人の登場で落ち着いた訳だが、モヤモヤするな。
結局、最高傑作の動画は消した。
四十人しかいないグループチャットですらこれだけ炎上したんだ。世界に出したら最後、特定班が家まで来る可能性すらある。
テストマーケティングはやはり大事だな……。
とりあえず、ケイタは気にしていなさそうだし、一件落着といったところか。よかったぜ。ケイタが冗談の通じる男で。
しかし、モヤモヤすんなぁ。
結局、動画は使い物にならねえし、ヒナとの賭けにも負けた上に、なぜかマサヒロはキレてる。せっかく、当選倍率10倍の抽選に当たって購入できたゲーム機は壊れちまってよぉ。
俺の一人負けじゃねーか。
しかし、チートを使った側のヒナが泣くとはなぁ。
ヒナからすれば、賭けに勝てて万々歳じゃねえのか? 意味わかんねえよ。
泣きたいのはこっちの方だよ。
……。
まぁ、被写体に無断で動画を作ったってのはまずかったか。
動画出してるやつは、多分、みんなやってることなんだけどな。
今後も動画投稿を続けていくなら、コンプラには気をつけて行かねーと。
時代だなぁ。
……。
くそっ。
とりあえず修理サポートに出すか。
……はぁ。
◆ご挨拶
『嘘告リベンジ』を読んでくれてありがとうございます。
続きが気になってくれたら、フォローや応援コメントをしてくださると、めちゃくちゃ喜びます。
星は1つからでも励みになります。
読者様とコメント欄でコミュニケーション取れるのが、仕事終わりの楽しみとなっていますので、ぜひコメントいただけると幸いです。
【作品紹介:インテリバーバリアンの生存戦略】
https://kakuyomu.jp/works/2912051607551151856
『嘘告リベンジ』の前に書き始めた、今も執筆中のダークファンタジーです。力は強いがIQが低い蛮族の中に生まれた突然変異のテリエスが、世界の果てを見てみたいという知的欲求にしたがって過酷な世界を生き残る。
「ザマァ」も「TUEEEE」もありませんが、めちゃくちゃ面白いと思って書いているので、更新待ちの間によろしかったら試し読みしてみてください♪




