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第29話 そりゃもうヤりまくりよ(マサヒロ視点)

——ジュワー


「マサハル、焼けてるよ」


「まぁ待て、こらっ! 触ろうとするなって何回言えばわかるんだ」


「ぷう」


「『ぷう』じゃねえ、ふっくらしなくなるだろうが!」


 ミレイは何回言ってもお好み焼きをペンペンしたがりやがる。コイツァ確実にわざとやってやがるな。


 ったく。しょーがねーやつだ。


「どれどれ」


——ペシッ


「兄貴もミレイと同じことしてんじゃねーよっ! ふっくらしなくなるだろうがっ!」


「ぷう」


「『ぷう』じゃねえ! 兄貴がやっても膨れたゴリラじゃねーか! かわいかねえよ!」


「私は?」


「はいはい、可愛い可愛い!」


「ふむ」


 ったく。二人して俺を揶揄《からか》いやがって。『ガラパゴス村民同盟』を組んでからというもの、俺はこの兄妹に振り回されっぱなしじゃねーか。


 今日だって三人でお好み焼きだなんて、仲良しすぎだろ。まぁ、兄貴がお好み焼きを奢ってくれるってんだ。


 振り回されるのも悪かねーけどよ。


——カランカラン


「いらっしゃ〜い!」


「三人いけますか?」


「いけるよー! そこの四人がけの席使ってね〜!」


「ありがとうございまーす!」


 んん〜。


 どっかで聞いた声だなーなんて振り返ってみると、そこにいたのは——


「げ、マサヒロにミレイじゃねえか、あと……」


「お、こんにゃく少年! 性癖は大丈夫か?」


「う、うす……」


 あぁ、フミタカ兄貴とレオンは顔見知りだったか。レオンが兄貴の車にくしゃみをぶちまけたり、ドッキリのネタバラシでも会ったしな。


「レオンじゃねーか。お前らもお好み焼きか?」


「あぁ」


「一緒に食うか?」


「いや、さすがにそこに六人はきついだろ。こっちで食うよ」


「おお、ほんじゃな」


「おう」


 レオンは取り巻きの北野と出川……アニメオタク仲間で仲良くお好み焼きか。


「おい」


「あ?」


「こっちにはミレイがいるんだから、あんまりでけー声でエロ同人なんかの話をするんじゃねーぞ」


「しねーよっ! ボケがッ!」


 レオンはこっちに中指を立てて背中をむけた。


 ……。


 あの事件から、別に仲良くなったわけじゃねーけど、別に仲が悪くなったわけでもねえ。


 なんとなく、嘘告動画事件の前よりは馴染みやすくなったというか、まぁ、教室で会えば挨拶もするし、たまに冗談を言い合うくらいの距離感だ。


 クックック。なかなか濃厚なデートをした仲だしな。あれからレオンは自分の動画を見て、部屋で爆笑してしまったという話を自分でしていた。


 ……ケイタの動画をアップした時に「冗談だって」と言ってたのはマジだったらしい。


 流石に呆れちまったが、自分がターゲットのドッキリで最初は怒りながらも、最後は面白くなっちまうところは、好感が持てねえこともねえ。


 まぁ、ケイタの中でどう処理したかはわかんねーけど俺の中では禊は済んでる。


 いつまでも振り上げた拳をそのままにしとくってのもカロリーを無駄に消費するだけだ。


「別にいいのに」


「あ?」


「エロ同人の話」


「飯時にエロ話なんて俺が聞きたくねーよ」


「ほーん」


「なんだよ」


「お兄ちゃん」


「ん?」


「エロ同人の話しよ」


「ええっ!? 仕方ない可愛い妹の頼みだ。一肌脱ぐか……」


「やめろって言ってんだろうがっ! 兄貴は一肌脱ぐなっ! しまえ!」


「あははっ! マサハル……あは……面白い……」


「うんうん」


 ミレイが俺をからかいながら声を出して笑うと、いつもフミタカ兄貴は嬉しそうにうなづいている。


 不思議な兄妹だ。


 まぁいい。


 そろそろお好み焼きが焼けるな——


「——佐伯陽菜と付き合ってる時? そりゃもうヤりまくりよ」


「やっぱり簡単にいけたんだ!?」


「あぁ、だりぃから別れたけど、すぐ簡単に部屋までついてきたぜ。イージーイージー」


「あの感じでエロ女だってんだから最高だよなぁ」


「まぁ、遊び相手としてはな——」


 ああ? お好み焼きが焼けるってのにクソ胸糞悪りぃ話せやがるバカがいんなぁ!?


 これがケイタの言ってた噂ってやつか……しかもこのデケェやつはあれか、ヒナと付き合ったとか付き合ってねえとかいうバスケ部の先輩とやらか。


 くそっ。


 ケイタの話をどこか軽く見ていたが、コイツァ重症だな……。


——プルプル


 ……。


 いつも通り無表情だが、ミレイも怒っているみたいだ。ヘラを持つ手に力が入っているのがわかる。


「あー、ミレイ」


「大丈夫。録音《と》ってる」


「おお……やるじゃねぇかっ!」


「マサヒロ」


「ん?」


「ヒナはヤってないって言ってた」


「ああ。わかってる」


「ん」


「気分はわりぃが、お好み焼きが焼けちまってるな」


「ふむ」


——カッカッカッ


「ほれ、ミレイのぶんだ」


「ん」


——ムシャムシャ


「うまいか?」


「んまい」


「よし」


 しかし、ミレイはなかなか機転が効くなぁ。俺が怒りで震えている間に録音を開始していやがった。


 ぶっちゃけ噂なんてのはどうも対応のしようがなくて困っていたんだが、情報元を押さえられれば話は早え。


 しかも録音なんて証拠が残ってりゃあ、学校側も流石にシカトはできねーだろ。とにかくここは録音しといて、焦げる前にお好み焼きをシバく。


 データは後でフミタカ兄貴に頼んで、聞き取りやすく修正してもらえばいい。


 発信源がだんまり決めりゃぁ、根も葉もねえ噂なんて、自然と消えていくだろうよ。


 まぁ、ヒナが新たに面倒を起こさなけりゃぁって話だが——


「んでよぉ、一昨日、弟のクラスのパシリが『佐伯先輩! 筆おろし、してください!』なんてやらかしたらしくってさ!」


「マジかよ! してくれたんか!?」


「いや、それがおかしな話でよ、一昨日は笑って話してた弟が、昨日帰ってきたら『やっぱこういうのよくねえよ』なんて言い出してさ」


 あー、ケイタの言ってた話はこれのことか? なるほど確かに一年の方は確かになんとかなってそうな雰囲気ではあるな?


 この録音を使えば、三年もある程度はどうにかなりそうだし、解決か? いや、どうもパンチが弱えな。


 録音だけならどうにでも言い訳はできちまう……。


「意味わかんねーな。美味しい思いしたのか? そんで好きなったとか?」


「さあな。あんなバカ女好きになっても、別にいいことねーのにな」


「そんでどうしたんだ?」


「あんまり日和《ひよ》ったこと言ってるから、一発ぶん殴って——」


——ガタンッ


「先輩、飯食ったんならキモい話しをしてねーで、さっさと帰ったらどうっすか?」


「は? 何こいつ」


「うぜぇな。クソが」


「ウゼェのはテメェらだよクソが! 気持ち悪りぃ話ばっかしやがってよっ!」


「おい、レオンやめとけってっ!」


「ウルセェぞ北野! 黙っとけ!」


「レオン……」


「クソ先輩表でろよカス! 食い終わったんだろ!? 店に迷惑だからヨォ!」


「あー、ウゼェ……テメェ、ついてこいよ」


「上等だボケがっ!」


 ……クソ田中にあっち側の座席でもんじゃ焼きをつついていたレオンが食いつきやがった!


 こいつ……やんじゃねーか!


 面白くなってきたぞ……。


——カランカラン


 田中と取り巻き二人とレオンの四人は会計を済ませて店を出ていった。


「悪い、二人で俺の分も食っちまってくれ」


 なんて言ってレオンが置いていった千円札をしまい、少しバツが悪そうな顔をしてもんじゃ焼きをつつく北野と出川。


「マサハル! 追わなくていいのか!?」


 なんて煽ってくるミレイは、なんだか楽しそうだ。いや、俺も楽しくなってきちまってる。フミタカ兄貴はすでにジャケットを着ている。臨戦態勢だ。


「そりゃ追いかけるに決まってんだろ」


「よしきた!」


 そういうと、ミレイもピンクのダッフルコートに手をかける。


「待て」


「どうしたマサハル。早く追いかけないと」


「ミレイは留守番だ」


「なんだと! また仲間はずれにする気か!」


「そうじゃねえ。よく見ろ」


「む?」


「お好み焼きがまだ半分以上残っている」


「!?」


「おい! 北野!」


「おお、どうした?」


「俺とフミタカ兄貴は追いかけるからよぉ、ミレイを仲間に入れてやってくれ!」


「あ、ああ」


 フミタカ兄貴がいりゃぁ、相手にケイタレベルの化け物がいなけりゃ問題ねえはずだが、仮にも女の子だ。


 危ねえ場所に連れてっていいことなんかひとつもねえ。


 ちょうどいいところに日和ったオタクが二人残ってるもんで助かったぜ。


「むぅ。後でちゃんと話を聞かせろよ……」


 不満そうな顔しつつも、お好み焼きの残りを皿に載せて北野たちのテーブルへ向かう。


 教室で見ている限り、女子との会話などほとんどしたことがない北野と出川は、少し気まずいような、嬉しいような顔が入り混じったよくわからない状態だ。


「わかったわかった! 三人で仲良くエロ同人の話でもしててくれっ!」


「ふむ……」


「え、飯島さん、エロ同人とか読むの?」


「いや、読まない」


「???」


 ミレイのノリについていけない出川が混乱している。


 まあいい。


「おい」


「はいっ!?」


「これ、会計に使え」


 そう言って、フミタカ兄貴は北野と出川とミレイの座るテーブルに一万円札を置いた。


「お、多くないですか!?」


「お前らの分も奢ってやる。社会人だからな」


「あ、ありがとうございます!」


「ミレイをよろしくな」


「……はい。そっちも、レオンをよろしくお願いします」


「おう」


「よっしゃぁ、兄貴、行こうぜっ!」


「おうっ!」


 ……。


 さーて、どう料理してやろうかな。


◇


「飯島さん」


「ん?」


「お兄さん似てないね」


「そうかな」


「怖そうだ」


「優しいよ」


「そうなんだ」


「うん」


「レオン、大丈夫かな?」


「大丈夫じゃない?」


「先輩たち三人いたよ……デケェし、バスケ部だし」


「マサハルがいるから大丈夫だよ」


「マサヒロはガリ勉じゃん!」


「大丈夫大丈夫。そこ、焦げてるよ」


「おっと」


「もんじゃも美味しいね」


「……ああ」


 マサハルとお兄ちゃんめ。


 また私を仲間はずれにしやがって。


 まぁいい。


 今度はもんじゃ焼きも作らせてみよう。


 こいつらのもんじゃでさえ、なかなか食いごたえがあるんだ。


 マサハルが作ったらすごいことになるはずだ。


 早く帰ってこい。


——モグモグ




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