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第26話 グェ……オェ……オェェェ

 なるほど、ヒナの変な噂の出どころは……ついこの間まで付き合っていたというバスケ部のなんちゃら……田中先輩とやらだったのか。


 で、弟のこいつも調子に乗ってくだらない事を……。


 くだらんな。


「先輩、二年生なら、ヒナ先輩知ってますよね? ヒナ先輩と最近まで付き合ってた……」


「あぁ。つまらん男らしいな」


「え?」


「好きだった女と別れて、下品な噂を垂れ流してるんだろ? 三年だか二年だか、そうか、発信源はそこだったんだなあ。合点がいったよ。お前もバスケ部か?」


「別に好きとかじゃなくて、『簡単にヤれそうだから適当に声かけただけだ』って言ってましたよ? んで、バスケ部だからなんなんすか?」


「ヒナの変な噂を流してるの……お前らだったんだな」


「は? だったらなんなんすか?」


 そうか、こいつか。パシリのやつ……大活躍だな。


 ……ふむ。


 残りの三人は、日和見か。


 教室には、こいつらだけか。


 ふむ。くだらないいじめなんか見たくないよなぁ。


 進学校のいいところだ。


 さて。


「おいパシリ。扉を閉めて来い」


「え、あ、はい」


——スタタタ、ガシャ


「おい、お前。名前は?」


「え、俺っすか? 佐藤です」


「佐藤。パン食ったなら、200円出せ」


「あ、はい。すみません」


「ふむ。佐藤、カーテンを全部閉めろ」


「はい」


「お前らは?」


「鈴木です」


「高橋です」


「200円おいて、ちょっと離れとけ」


「はい」


「はい。すみません」


 さて、舞台は整ったな。


「何お前ら? ダサっ! え? 先輩、やる気っすか? ウケるんスけど」


「そうか? 俺は何も面白くないけどな」


「別にいいんすけど、問題になりますよ?」


「お前らがか?」


「は?」


「俺はイジメにあってる後輩に金を貸して、パンを食ったやつから金を回収して、ヒナの性的な噂を流している奴がいて、ヒナに対しても全校規模のイジメと取れる行為をしている後輩に、先輩として指導をするだけなんだが……まぁ、問題になるかもなあ」


「何言ってんすか——」


「この学校の奴らはバカじゃないから、問題になれば、ちゃんと事実を証言するだろうな。一応俺もいくつか証拠は押さえておいたし、昨日のあれも、目撃者は何人かいたもんな」


 基本的に乱闘になった場合はこちらが有利だ。


 ……。


 それでも、やりすぎはまずい。


 避けるべきは、器物破損と流血。


 大義名分も証拠もあるわけだからな。


 こいつら以外にチクるやつがいても、問題ないだろう。


 教師に知られるのはこいつらの方がリスクだ。自爆特攻を仕掛けてくる可能性は低い。


 もし問題になっても、長くて一週間の停学程度だ。全く問題ない。推薦は取れなくなるだろうが、受験なんて一般で受ければいい。


「おいパシリ」


「あ、はい……」


「お前の焼きそばパンはまぁ、俺の奢りにしてやるよ」


「ぼ、僕、食ってないです」


「ん? 焼きそばパンは五個じゃなかったか?」


「……」


「そうか、田中。お前が二個食ったのか」


「だったらなんなんすか?」


——ポキッポキッ


 田中はやる気みたいだ。首を左右に振ってポキポキ鳴らしている。進学校の生徒のくせにイジメだ喧嘩だなんて、変わったやつだな。


「お前は別に金を払わなくていい」


「いや、別に払う気ないっスけど——」


 不意をつく田中の右拳が俺の顔面にヒットした。


——バキッ


「ぐっ! ぐはっ!」


 ……。


 よし。相手が先に手を出した上にこっちは鼻血も出したんだ。


 大義名分は十分だろう。


 ここからは正当防衛だ。


「あははっ! 先輩! 鼻血出てますよ? 大丈夫っすか——」


——ドゴォン


「い、いっ、グェ……オェ……オェェェ」


 喧嘩中に人の胸ぐらを掴むなんて、投げてくれと言っているようなものじゃないか。


 重心の安定しないガリガリなんて、ちょっと転ばしてやって、巻き込んだ拍子に鳩尾を押してやればこんなもんだ。


 呼吸ができずにのたうちまわってる……。ちょっと泣いてるのか? さっきまであんなにイキがっていたのに、調子のいいやつだな。


「おい、大丈夫か?」


「オェ、オェ、オオオロロロ」


 おお……吐きやがった……いっぱい出たな……。


 ……。


 そういえば俺も昔はよく先輩に投げられて、こんなふうに道場の横で吐いていたな。


 あの頃は、腹筋やらインナーマッスルが鍛えられていなかったし、投げられる経験なんてあるわけもなかったからな。


 田中は人のことを殴ってばかりで、自分より強い奴にシバかれたことはなかったんだろうな。


 想像しなかったのだろうか。パシリをいじめたり、先輩の変な噂を流していれば、どこかで痛い目にあうと。


 ……まあいい。


 焼きそばパンは出しちまったんだから、食ってないって事にしといてやろう。


「おお、田中。焼きそばパンが出ちまったな。それならしょうがない。腹の中に無いんだから、食ってない事にしてやろう」


「ぐっぐぐ……オロロロロロ」


 おぉ、セカンドインパクトか。一人で二個も焼きそばパンを食ったんだ。炭水化物に炭水化物。やっぱりバランスが悪かったみたいだな。


 ふむ。背が高くても、うずくまってちゃ意味ないな。四つん這いじゃ大型犬程度のサイズだ。


「おい、パシリ」


「はい」


「こいつにどれだけ奢らされたんだ?」


「え、ええ!?」


「覚えてないのか?」


「い、いえ、夏休み明けから大体毎日400円くらいなので、15,000円くらいかと……」


「だいぶやられたな……プロテインが三袋くらい買えるじゃないか……」


「はい……まぁ……」


 パシリがモジモジしていると、這いつくばりながらも、血走った目で田中はパシリを睨みつける。


「ぐっ、ごほ、パシリテメェ……チクりやがったな」


「ご、ごめ」


「覚えとけよ……」


「ううっ」


 こいつは本当に反省しないんだな。この高校に入ってから平和すぎて忘れていたよ。こんなしょーもない奴がいたってことを。


「おい田中……まだやるか?」


「い、いや、やんないっす」


「お前、パシリをまた裸にする気か?」


「いや、もうやらないっす」


「仲間はずれにしたりするのか?」


「仲良くします」


「金も返せよ?」


「……はい」


「だとよ、パシリ」


「あ、ありがとうございます!」


 ふむ。これでパシリの問題は解決だな。さすがにこの状況からまた変なことはしないだろう。


 借りは返したぞ。


 パシリよ。


「さて、焼きそばパンとパシリの分はこれで終わりだなあ」


「え? ええ?」


「まだ、ヒナの件が終わっていない」


「ちょっまっ」


「なぁ。俺は怒ってるんだ」


「……すみませんでした」


「おい。泣いて謝って何が解決するんだ? 解決策を提示しろ」


「……」


「自分で考えてわからないなら、友達を頼ったらどうだ?」


「……」


「……」


「……」


「……」


「おい。田中に佐藤、高橋、鈴木、そしてパシリよ。五人もいて、誰も解決策を考えられないような、取り返しのつかない問題を起こしたってことか?」


「あ、あの……」


「なんだ? 佐藤」


「お、俺たちで一年の中のその……ヒナさんの噂……なんとかします」


「佐藤。いい心がけだ。お前は素直に料金も支払ったし、なかなか賢いみたいだな」


 続いて鈴木が手をあげる。


「お、俺も明日から、その噂はデマだってみんなに言います!」


「鈴木、なんでお前はちゃんと考えられるのに、くだらないイジメに加担したりするんだ? そんなんじゃぁいつか、怖い目に遭うぞ?」


「……はい」


 何か言いたそうにこっちを見ている鈴木の横で、高橋が泣きそうな声で叫びだす。


「すみませんでした! 俺、田中が変なことしようとしたら、止めます!」


「高橋。それは当然だ。お前たち四人にはその義務がある。パシリをいじめるのもダメだ。仲良くしろ」


「は、はい」


 仲間たちがそれぞれ意見を出したというのに、肝心の田中はだんまりだ。


「して、田中。お前はどうするんだ? 三年のお兄ちゃんでも連れてくるか? 良いぞ、連れてこい。お前の兄貴には俺も腹が立ってるし、暴力沙汰が一番簡単で助かる。何人連れてきてもいいぞ?」


「い、いや、兄貴は……」


「それとも先生に言うか? リスクリターンの計算はすでに済んでいるからなぁ、まぁ、可愛い後輩をぶん投げて、ゲロを吐かせたんだ。その責任を取れと言われれば、甘んじて受け入れるさ。もちろん、お前たちも一緒に檻に入ることになるだろうがな」


「お、檻って……」


「停学だな。俺はまぁ、長くても一週間だが、お前らはイジメやら性的嫌がらせやらが混ざってくるから、最悪の場合は退学だろうな」


「……」


「別にお前らが退学でも俺が停学でも構わんが、一つだけ確かなことがある」


「な、なんすか?」


「お前らが退学しても約束は守ってもらうぞ」


「約束?」


「ヒナの噂を消すことだ。これさえちゃんとやれば、俺はもう現れないと思うが、約束を守れないとなると……暇ではないんだが、なるべく毎日会いにくるしかないな」


「か、勘弁してください」


「お前らの活躍次第だな。俺はヒナの噂をどうにかする方法を知らないから、お前らに任せるしかないんだ。田中、お前が頑張れば……アニキはゲロを吐かないですむはずだ」


「あ、ありがとうございます。がんばります……」


「兄貴にも言っとけ、『ヒナの噂を流してると、ロクな事にならんぞ』と」


「はい」


「じゃないと、お前の兄貴に会いに行かなければならない。お前は兄貴が嫌いか?」


「嫌い……じゃな……いです」


「じゃあ、兄貴にも注意させることだな。一年だけならまだしも、お前らだけで先輩たちの口を封じることはできないだろうから」


「は……ひ」


「おいおい、いつまで泣いてるんだ? あとあれだな。俺の名前は出さない方がいいぞ。俺はヒナに心配かけたくないんだよ」


「わ、わかりました」


「ヒナからすれば、俺が例の噂話を知っていること自体気分が悪いだろう。俺は何も聞いてないし、なにも見ていない。だから、今日あったことはここだけの秘密だ……わかったな?」


「はい」


「よし、いい返事だ。俺の用事は終わりだ。ゲロは仲良く片付けろよ」


「はい……」


「あ、そうだ」


「な、なんすか」


「来週の月曜、中間レポートを提出してもらうから、用意しとけ。書式は任せる」


「は、はい」


 ……ふむ。


 なかなか冷静に事を運べたんじゃないだろうか。


 大義名分。


 良い言葉だな。さすがマサヒロ。


 困った時には友達に頼る。


 大切な事だな。




◆ご挨拶

 『嘘告リベンジ』をここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 「続きが気になる……」と思ってくださった方は、よかったら応援やレビューをいただけると、嬉しいです。


 星は1つからでも大歓迎! そして、読者様とのコメント欄での交流を日々楽しみに生きています。


◆新作のお知らせ

『ゲームの中の悪役令嬢の兄になった俺は、追放されかけた妹を最強に育ててトゥルーエンドを実現する』

https://ncode.syosetu.com/n4271my/


 こちら、新作です。可愛くてクールな最強の妹と一緒に生活する、ほんわかファンタジー。嘘告リベンジの次の話をお待ちの時間によかったら読んでみてください。

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