第24話 ヒナにセクハラしてた奴だな?
ミヅキとユウトには、だいぶ世話になってしまったな。しかし、ヒナがあんなことになっていたなんて、想像もしていなかった。
学年を跨いで一人の女子に対して、性的な噂話をするどころか、罰ゲームの対象として呼び出すなんて……これはイジメ的な問題として、学校で処理してもらった方が良いのではないか?
俺が動くか……でも、ヒナのために俺がやらかすのがバレると……あんまり良くないんだよなぁ。
んー、ちょっとモヤモヤするな。
今は……20時か。
マサヒロのガリ勉タイムを邪魔するのもアレだが……ちょっと電話してみるか。
マサヒロは俺が邪魔したら「邪魔だ」って言うやつだからな。
——トゥルルル
『もしもし?』
『あぁ、マサヒロ。俺だ』
『おう。珍しいな。どうした?』
『すまん、ガリ勉中に邪魔しちまったか?』
『いや、今は大丈夫だ。帰り道……歩いてる最中だ』
『こんな時間にか、めずらしいな?』
『まぁ、そういうこともあるってことだな』
よかった。ガリ勉タイムの邪魔にはならなかったみたいだな。うん。確かに風の音と、時々車が通る音が聞こえる。
これなら、ヒナのことを相談しても迷惑にはならないだろう。
『マサヒロ、ヒナのことで相談があるんだが』
『おう。どうした?』
『なんていうか、その、ヒナがイジメにあってるみたいなんだ』
『あ”? いじめだ? そういうタイプにゃぁ見えねーが……』
『今日、こういうことがあってな——』
俺はマサヒロにさっきのいじめの話や、ユウトとミヅキから聞いた一部始終を説明した。
◇
『そういうことか。まぁ、イジメというか、そういうふうに受け取るやつがいてもおかしかあねー事態ではあるよな』
マサヒロも二人と同じように、何かを知っていたようだ。俺の話を妙にすんなり聞き入れてくれた。いや、理解が早いのはいつものことか……。
『これは先生に相談なんかした方がいいのだろうか?』
『難しいところだよな。教師がどうだこうだ言ったところで、噂なんざ勝手に膨れあがっちまうもんだしなあ』
『そうか、やっぱり噂を止めるってのは難しいことなんだな』
『まぁ、さっき聞いたみてえな悪ふざけの相手させられるようなこたあ、どうにかなくなるかもしれねえから、試してみるってのも悪かねーかもな』
『そしたら、明日先生に相談してみる』
『あぁ。ただあれだな。ヒナには直接聞いたりしない方がいいかもなぁ』
『そうなのか? なんで……』
『まぁ、その場で直接ケイタが突入したってんなら話は別だが……今は知らねえフリしておいてやった方がいいかもな。ヒナがケイタに言わねえってことは、まぁ、そういうこったろ』
『……そうだな。さすがだマサヒロ』
『まぁ、本当だったらその場で突入すんのが正解だったんだろうけどな』
『マサヒロも、あの二人と同じことを言うんだな』
『そこは突入すんのが男だろ』
『そうか。またやらかしてしまったんだな』
『とにかく、俺の方でもなんか考えとくから、とりあえず先生にだけ、相談してみろ』
『わかった。ありがとなマサヒロ』
『ケイタ』
『どうした?』
『何かやらかすなら、大義名分を大事にしろよ』
『おお! 大義名分だな! わかった!』
『あぁ、ほんじゃ、俺はスーパーガリ勉タイムだ。また明日な』
『ああ。ありがとうなマサヒロ』
——ガチャ
……。
どうやら、俺は男になり損ねてしまったらしい。
難しいな。
大義名分か。
確かに大事だな。
大義名分な。
その辺に落ちてないものだろうか。
大義名分。
……。
とりあえず、風呂に入って、寝るとするか。
明日先生に相談。
明日先生に相談。
明日先生に相談。
よし。
◇
……。
もう昼休みか。
朝のヒナはなんか、ぼーっとしていて元気がなかった気がする。
俺はしばらくヒナの顔を見れていないから、よくわからないけど、とにかくぼーっとしていた。
——ガヤガヤ
購買……久しぶりに来てみたが、賑わっているな。どれ、何かうまそうなものはあるだろうか……。
ふむ。焼きそばパン。やはり定番は外さないな。試してみるか——
——ドカッ!
む。割り込みか。購買は戦場だと聞いていたが……なかなか熾烈なものだな。やはり、争い事が苦手な俺には弁当が似合う——
「す、すみません! 焼きそばパン五個ください!」
五個だと。割り込んで全部持っていく気か……?
この声、昨日の——。
『佐伯先輩っ! 筆おろししてもらえませんか?』
こいつ……。
「おい、待て」
——ガシッ
「横入りはダメだ。並べ」
「す、すす、すみません! でも、パンが! すみません!」
「……焼きそばパンじゃないと、ダメなのか?」
「す、すみません! はい! そ、そうなんでっす!」
「そうか。仕方ない……まぁ、ズルにはなるが……俺が買えば、横入りにはならんか……金は自分で出せよ?」
「す、すみませんっ! あ、ありがとうございます」
何やら困っているようなので、とりあえず焼きそばパンを五個と……カツサンドがあるじゃないか! たまごサラダパンと……照り焼きチキンバーガー。
少し炭水化物が多めだが、まぁいい。タンパク質は確保できているし、焼きそばパンよりも健康的だ。
今思えば、焼きそばパンは意味がわからない選択だ。炭水化物を炭水化物で挟むなんてどう考えても——
「あ、ありがとうございましたっ! 僕はこれでっ!」
——ガシッ
「おい、どこへいく」
「あ、あの、友達が待っているので」
「お前、昨日ヒナに『筆おろし』を頼んだやつだな?」
「え、あ、あ、す、すみませんっ!」
「ちょっとこい」
「え、あ、あああああ!?」
——ズザザザザザ
◇パシリ視点
や、やばいっ! やばい先輩に捕まってしまった……リ、リンチか!?
力が……力が強すぎるっ!
全く逃げられる気がしない……。
パンが……やばい……先輩が……どうしようっ!?
ちょっ、体育館裏まで引きずられてきちゃっ。
ええ!? 本当にこんなことあるの!?
やばい先輩に、えええ!?
「お前、昨日……ヒナにセクハラしてた奴だな?」
「あ、はい、い、いいえ、あああ」
「おい。俺は真面目に聞いているんだ。真面目に答えろ」
「あ、は、はい。す、すみません!」
やばい。昨日のことだ……あ、あれは、僕だって好きでやったわけじゃ……。
「ヒナが好きなのか?」
「え?」
「ヒナのことが好きなのかと聞いているんだ」
「あ、あはい、いい、いいえ!」
「どっちなんだ?」
「す、すす、好きとかでは、ありませんっ! か、かっか、可愛い先輩だとは思いますがっ!」
「それなのに、なんであんなことを?」
——ゴゴゴゴ
や……やばいっ! めちゃくちゃ怒ってるっ!
「あ、あれは、ばばば、罰ゲームでっ!」
「罰ゲームだ? 外で見て笑ってた奴らと一緒にか……」
「は、ははは、はい。昨日、パンを買えなかったので……」
「パンを? 昨日もお前で、今日もお前なのか?」
「あは、あはは、昼飯は僕の係なんですよ」
「……金はもらってるのか?」
「い、いや、その……」
「金はもらわずに、昼飯を買って、遅れたら罰ゲームだ?」
「……」
「それは友達なのか?」
「そ、その」
僕だってわかっている。こんなのは普通じゃないって。でも、仕方ないじゃないか。
いじめじゃなくて、友達同士のイジリだって言い聞かせてたけど……やっぱり、客観的に見たら……そうなるよな。
「おい」
「は、はいっ!」
「先生には相談したのか?」
「え?」
「いじめだろ、それは」
「……そう、なんですかね」
「ヒナにまで迷惑かけて」
「それは、すみません」
「俺は先生には相談したのかと聞いているんだ。ちゃんと答えろ」
「いや、してないです……」
「なんでだ?」
先生に相談なんかできるわけないじゃないか。田中は一年でバスケ部のエース……田中の兄貴だって、三年の先輩で……。
ヒナ先輩と付き合ってて、色々やったって、軽い女だから……運がよけりゃぁいいことになるかもって……。
……期待してなかったと言えば、嘘になるか。
でも、いじられたり、みんなの前で笑い物にされたりするくらいなら我慢できる。昼飯だって、パンを買いに走る僕を見て笑ってるだけだ。
金だって……昼飯のパン一個を人数分程度なら……小遣いで賄える。僕のお腹が減るだけだ。
僕は綱渡りなんだっ! 先生に相談なんかして、グループから仲間外れにされたり、先輩に睨まれたりしたら……溜まったもんじゃない。
「ぼ、僕は、このままでも……別にいいんです」
「いじめられっ子でいいのか?」
「いや、まぁ、はい」
「先生に相談したらどうだ?」
「い、いや、それでひどくなっても、困るし……」
「ひどくなったりするのか?」
「え、あ、まぁ、そういうこともあったり」
「そうか。それは困るな」
会話のテンポがおかしいぞこの先輩。結局ここで僕を引き留めて何がしたいんだこいつは!?
「あ、あの、そろそろ」
「俺はよくない」
「え?」
「お前がいじめられているのは……まぁ、お前がいいならいいんだが」
「は、はい……」
なら放っておいてくれよっ! 僕は焼きそばパンを届けないといけないんだよっ! はぁ、今日も罰ゲームだ……。
何させられるんだろうか。パンツは……パンツだけは死守できればいいんだけど……。
「おい」
「お前、名前は?」
「橋理……橋理大河です」
「パシリ? 変わった名前だな」
「へ、へへ」
「おいパシリ」
「は、はい」
「これは取っとけ」
「で、でも」
お金、くれるのか……? でも、なんで? わけがわからない。いや、もらえるもんは貰っとくけどさ。
「お前の友達から回収する」
「え?」
「放課後、教室で待ってろ」
「え、ええ!?」
な、何を言ってるんだこのゴリラ先輩は!?




