第21話 黒いどろどろ(ヒナ視点)
放課後、ミレイのうちで作戦会議をすることに。学校から徒歩で15分くらいのところにあるミレイの家は、ケイタの誕生日パーティの会場でもある。
——ガチャ
「ただいま〜」
「おかえり〜」
「「お邪魔しま〜す」」
「いらっしゃーい」
ミレイの家に入ってすぐ目の前の扉の先からお兄さんの声がする。わざわざ挨拶しなくて良いとは言われたけど、本当にいいのかな。
まあ、マサヒロも大丈夫だっていうんだから大丈夫なんだろう。オンラインで一緒にゲームをやったことはあるけど、どんな人かはわからない。
気になるけど、まあ、後でいいか。
「ここがパーティの会場だよ」
「わー、広いし綺麗だねっ! お兄さん、綺麗好きなんだ?」
「ヒナ、なんで私が片付けていないと決めつけるんだ?」
「ミレイが掃除してるの?」
「ふっ。そんなわけないでしょ」
「最初からわかってるよーっ! このこのー!」
「ふふふ」
ここが会場なら、結構色々とやれそうだな。そう考えるとちょっと企画は地味だったかなー?
ンンン。
ちょっととりあえず提案だけしてみよう。
ダメだったらマサヒロとミレイと一緒に考えればいいもんね。
「んで、ヒナが考えたスペシャルな企画ってのはどんななんだ?」
「ん〜、ちょっと地味なんだけどさ、みんなで一枚ずつ手紙を書かない?」
「手紙かぁ、手紙なぁ……書いたことねえなあ」
「私も手紙は書いたことないね」
私も最後に手紙を書いたのは、小学校の国語の授業かなんかで、美咲先生が、隣の席の人に手紙を書いてみましょうなんて言い出した時以来だ。
あの時は……ふふっ。
隣の席、ケイタだったなあ。
転校してきたばっかで、標準語のケイタ、懐かしいなあ。
ケンちゃんとかに「変な喋り方だなオメェ」とか言ってからかわれてたっけ。
変な喋り方は、私たちなのにねっ。変なの。
ケイタからもらった手紙には『友達になってくれてありがとう』とか書いてあった気がする。
ふふっ。可愛いこと書いてあったなー。
私はなんて書いたんだっけな。
全然覚えてないや。
でも、先生が言ってたことは覚えてる。
『手紙は……文字は……言葉の代替品ではないんです』
『どういうことですか?』
『あなたの筆跡、文体はもちろん、便箋はどうするか……昔の人は、お香で香りを焚いたりもしていたわね』
『香りも?』
『そう。今は便利な時代になってしまったけど、まだ、電子では紙の質も、香りも運ぶことはできないわね。手紙には手紙の素敵なところがあるの』
『ほえ〜』
『ふふっ。ちょっと難しかったかしらね。それでも、頑張って書いてみましょ。いつか、役に立つ時が来るかもしれないから』
『はーいっ! がんばって書こうね! ケイタ!』
『うん。頑張って書く』
『ふふっ。先生はケイタくんが転校してきてから、学校が楽しい。ヒナちゃんもいつも元気で素敵だね』
『先生もいっつも綺麗で素敵だねっ! ねーケイタ!』
『うん! 先生素敵だ!』
『あら、嬉しい。ありがと』
美咲先生の言うことは難しかったけど、綺麗で、可愛くて、素敵な先生だったなぁ。
今、何をしているんだろう。先生にも手紙なんか書いてみようかな。住所とか、わかんないけど、ケイタに聞けばわかるかも。
今度聞いてみよっと。
でも今は作戦会議だ。
二人にも先生の話をしてあげよう。
きっと伝わるはずだ。
手紙じゃなくて、言葉でも。
「小学校の頃の先生がね——」
◇
「だから、なんか変わろうとしているケイタと今の私たちには、一番あってるって思ったんだ」
「「……」」
なんか、変なこと言ったかな?
二人とも黙っちゃって……。
まいったなぁ。
「つまんない企画だったかな——」
「ヒナ、やるじゃねーか! 全然期待してなかったんだけどヨォ、お前がここまで考えられるやつだったとは意外だぜ」
「むむむ。インテリジェンスを感じるね……ユーモア……いや、パッションもっ」
「へ」
「これなら間違いねえ、そしたらあれだな、プログラムの順番を『企画 → サプライズ企画』から『サプライズ企画 → 企画』に変更だな」
「そっちの方がいいね。笑あり涙ありのパーティになりそうだね」
「あぁ、間違いねえっ! 楽しくなってきたなあ、手紙かー、手紙は書いたことねえんだよなぁ。確かに平安時代の貴族なんかはよぉ、薫物だとかなんとかで、ラブレターを認めるってなりゃぁ、センスの良い香を炊いてないと、ダセェ男だっつって一発で振られるみたいな文化もあったみてぇだしな。香りだとか便箋だとか、音だけじゃなくて視覚、触覚、嗅覚で伝えるってのもロマンがあって良いじゃねえかっ!」
「ガリ勉スイッチが入っちゃったね。そっかぁ、手紙かぁ。手紙は盲点だったなぁ」
「さすがガリ勉だね。先生の言ってたこと、私もみんなも全然わかってなかったのに……」
「そりゃぁ、小学校低学年のガキにゃぁ色恋なんてのはまだはええからなぁ、それでも、ヒナの頭ん中にゃあその美咲先生とやらの言葉がしっかり残ってたんだろ?」
「そうだね、何でもかんでも覚えてるわけじゃないけど、印象に残ったのかな」
「そこだよそこ! 頭で理解できなくても心で感じてたんだよ! だからこそおもしれえ、良い企画じゃねーかっ!」
「なんかマサヒロに褒められるのはむずがゆいなぁ」
「ヒナ、マサハルは意外と褒めてくれるんだよ」
「そう……みたいだね」
「ヒナみたいに撫でてはくれないんだけどね」
「そ、そうなんだね」
「ヒナ、えらいね」
「へへ、ありがと、ミレイ」
そう言ってミレイの小さい手が私の頭に伸びてきた。
ん〜撫でられるってのも、悪くないね。
……。
ケイタも褒めてくれるかな……。
『良い企画だな。よく考えてくれた。えらいぞ、ヒナ。よしよししてやろう』
『んんん〜ケイタが喜んでくれて嬉しい。誕生日おめでと』
『よしよし』
『ふふふ』
『あはは』
『ケイタ、大好き』
『ヒナ……俺もだよ』
……。
アアアアアアアア!
こうしちゃいられない。
パーティを絶対成功させなきゃ!
ところで、サプライズ企画は私にもサプライズなのかな?
「ねぇ、サプライズ企画って——」
「そいつぁ当日のお楽しみだ」
「楽しみにしてて。ぶっとぶよ?」
「う、うん」
私には教えてくれないみたいだ。
◆
『あ、あの子……二年の佐伯陽菜——』
——コソコソ
『——寝るってマジ?』
——コソコソ
『先輩も——だってよ——』
——コソコソ
◆
う、うう。
ケイタ……。
ケイタぁ……。
ごめんね。
ばかで、変な噂なんか流れるくらいバカで。
ケイタ。
私は噂なんてどうでもいい。
もう、誰に呼び出されても、ついていかない。
考えるどころか、告白すらさせる気はない。
付き合ってみて好きになるなんて、私にはありえないってわかったから。
ケイタが大好きだから、他の人に興味が無かったってわかったから。
……。
ケイタが噂なんか聞いたら、悲しむかもしれない。
恋とかそういうのじゃなくても、ケイタは友達の悪口とか嫌いだから。
それに……多分……まだ私のこと、大好きだから。
そうだったら良いとも思うし、それがケイタを傷つけるなら……そうじゃない方がいいかもとも思う。
いや、嘘だ。
わがままだけど、大好きでいてほしい。
ケイタといる時間は幸せだし、ミレイたちといるときは楽しい。
それでも、どうしても付き纏ってくる。
黒いどろどろ。
夜、ベッドに入ると必ずこれに包まれる。
バカな私が生み出した。
黒いどろどろ。
◆ご挨拶
『嘘告リベンジ』をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「続きが気になる……」と思ってくださった方は、よかったら応援やレビューをいただけると、嬉しいです。
星は1つからでも大歓迎! そして、読者様とのコメント欄での交流を日々楽しみに生きています。
次回『第22話 空き教室の前で……あれ、ヒナだよな?』の更新は11月01日になります。
引き続き『嘘告リベンジ』をよろしくお願いします!




