第20話 筆おろししてもらえませんか?(ヒナ視点)
ケイタの誕生日の企画……。どうしよっかな。
ミレイとマサヒロは放課後になるとすぐに「サプライズの準備だ」なんて言いながら二人で消えちゃう。
ケイタだって、「あぁ、すまん。今日はユウトとミヅキの日なんだ」なんて、変な手帳を持って遊びに行っちゃうし……。
一人で図書室に来て調べようと思ったら——
『あ、あの子……二年の佐伯陽菜——』
——コソコソ
『——寝るってマジ?』
——コソコソ
『先輩も——だってよ——』
——コソコソ
これだよ。
おーい! 本人に聞こえてるよーっ!
どうしてこんなことになっちゃったかなぁ……。
確かに高校に入ってから、彼氏が四人できたけど、そんな噂になるようなことは誰ともしていないのに。
なんか、すごいテクニシャンみたいな話になっているみたい。
別に噂だけなら、別にいいんだけどさ。
別にクラスの子たちはこんな話は気にしていないみたいだし。
……多分。
いや、少なくとも、私の仲のいい友達がそんな変な話をしているなんて事はない!
……と思う。
最近ネガティヴだなぁ。
ケイタの事もあったけど、昨日のこともやっぱり引っかかる。
放課後に後輩から『ちょっといいですか?』なんて呼び出されて、ついて行ったら……。
『さ、さささ、佐伯先輩っ! ふ、ふふ、筆おろし、してもらえませんか?』
『え?』
『さ、佐伯先輩! お願いしますっ!』
『ええぇ? 筆は……自分でおろしなよ……』
——クスクス
『う、うう……』
『君、大丈夫?』
『あ、はい』
『そっか……、筆おろしはできないけど、何かあったら言ってね』
『……すみません』
『うん。バイバイ』
だもんなぁ。
さすがに罰ゲームかなんかのネタに使われるのは、嫌だなぁ。
ケイタに知られたら……大変なことになりそうだし。
モヤモヤするなぁ。
……あれは、いじめかなんかなのかな。ただの罰ゲームとかだったらいいんだけど、あの子、大丈夫かな。
先生に言った方がいいのかな……。
どうしよ。
まいったなぁ。
ケイタには絶対言えないし……。
はぁ。
ケイタぁ……。
◇
——チュンチュン
結局あの後、家に帰ってもモヤモヤしたまま朝を迎えてしまった。
えぇ……このガリガリはそろそろまずいんじゃないか?
ご飯は食べてるつもりだけど、やっぱりそんなに美味しく感じない。
お父さんにも、お母さんにも心配かけちゃってるし……。
どうしよ。
ンンン〜。
「おはよーケイタ」
「おはようヒナ」
「んん〜っ!」
「なんか、眠そうだな?」
「あー、最近早起きだからかな……」
「朝、遅刻しなくなったもんな」
「ふふん。偉いでしょ」
「ああ。えらいな」
「へへ、行こっか」
「おう」
「へへ」
「?」
……。
あぁ、ケイタだ。
ケイタが横にいる。
背筋を伸ばして、まっすぐ前を向いて歩いてる。
背が高くて、冬服の上からでもわかるくらい、筋肉がモリモリ。
柔道やめてからも、ずっと筋トレはしているんだね。
私だって女としては強い方だと思うけど、ケイタには敵わないだろうなぁ。
……。
……大好きだなあ。
「——ヒナ」
「え、ああ、どうしたの?」
「最近、ぼーっとしているな。……大丈夫か?」
「あ、うん! ケイタは最近、楽しそうだね」
「あぁ。世界が少し広がった感じがして、今、結構楽しいんだ」
「……そっかっ! よかったね!」
「おうっ。ヒナは楽しいか?」
「え、ああ、うんっ!」
「それならよかった。パーティ、楽しみだな」
「ね! ミレイのお兄ちゃんも来てくれるらしいんだけど、いいよねっ!」
「おおっ! 一緒にゲームをやった事はあるんだが、会った事はなかったよな」
「そうそう! ミレイのお兄ちゃんだから、きっと美形だよっ! 楽しみだね」
「おお。ミレイはシルバーバックとか言ってたが、ミレイから見たら大体の人間はゴリラだもんな」
「シルバーバック?」
「群れを率いるゴリラのことだな。気が優しくて力持ち。ゴリラは一夫多妻で、ハーレムを築く生き物なんだが、シルバーバックと言われる個体は——」
「へーっ! さすがケイタぺディアはなんでも知ってるね」
「まぁ、調べればわかることはな」
「ふふ。えらいね」
……。
ミレイとマサヒロが、あの動画のことをケイタに説明してくれたらしい。心なしか、そのあとはケイタが元気になった気がする。
よかった。ケイタは多分、私がいつものバカをやらかしたって、わかってくれたんだと思う。
ただ、それでも……もう一回、恋人になろうなんて話にはならなかった。
つまり、そういうことなんだろう。
私のバカさがケイタを傷つけてしまったのだから……好きだ好きじゃないなんてのを期待するのも烏滸がましい。
こうやって一緒に登校する時間、一緒にいてくれる時間を大切にしよう。
せっかくケイタが楽しそうにしているんだから、もっと楽しくなってもらえるようにしたい。
……。
ケイタに悲しい思いをさせたのは、申し訳ないけれど、あの事件は私にとっては必要だったのかもしれない。
ケイタのことが大好きだって、自分のことを知れたから。
私はバカだから、これからも変なことをしでかすだろう。
それは間違いない。
でも、ケイタが大好きだってことを間違えることはもう二度とない。
大好きすぎて、頭がおかしくなりそう。
変なノートを持ったケイタが他の女子と楽しそうに話しているのを見るだけで、内心は穏やかじゃない。
でも、多分これがケイタの言う「世界が広がった感じ」なんだろうね。
……嫉妬だけじゃない。これは独占欲だ。
ケイタの世界が広がることが怖いんだ。
ずっと、独り占めしていた大好きな幼馴染の世界が広がって行ったら、私みたいなバカに構ってくれる時間は減っていくんだろうな。
ヤダ、ヤダヤダ、絶対ヤダ。
でも、それが普通なんだ。
幼馴染だからって、大好きだからって、私はケイタを閉じ込めていたんだね。
……。
ケイタはまっすぐ前を向いている。
はは。眩しすぎちゃうなぁ。
こんな楽しそうなケイタの邪魔はできないな。
……。
私の変な噂、ケイタが聞いたら……。
ケイタの邪魔はしたくないな。
はぁ。
大好きだなあ。
学校になんか着かなければいいのに
……。
◇
——キーンコーンカーンコーン♪
……。
モヤモヤしたままお昼になってしまった。
「ミレイ〜お昼食べよ〜」
「ん」
「今日も気合い入ったお弁当だねぇ」
「ふふふ。今日はちょっと私も手伝ったんだよ」
「ええ!? どれ?」
「うちわでパタパタやった」
「ん? どういうこと?」
「お弁当って、蓋を閉める前に冷ますんだよ」
「そうなの?」
「ふふっ。ヒナはなんにも知らないんだね。あったかいままだと、水蒸気だかなんだかが結露して、それがお弁当を傷めちゃうから、できるだけ冷ますんだってさ」
「そうなんだ」
「だから、私がパタパタしたのっ!」
「偉いねミレイ」
「ん」
ミレイが頭を出してきた。褒めてもらいたいときはいつもこうだ。
もーっ! これを天然でやってるんだからずるいよーっ!
こんな子はこうしてやる!
——わしゃわしゃ
「よしよし」
「ふふふ。ヒナ。大事なのはユーモアとインテリジェンスだよ」
「?」
最近、ケイタだけじゃなくてミレイも楽しそうだ。学校に来てもお昼以外はずっと寝ていたのに、最近は授業中も真面目にノートを取っている。
しかも、マサヒロ直伝の『伝説のガリ勉ノート』スタイルらしく、めちゃくちゃ綺麗にまとめている。
どうしよう。こんなに楽しそうなミレイに変な相談なんかできないな。
「ヒナ」
「ん?」
「マサハルはすごいんだよ。ラーテルの生態にも詳しいんだ」
「そうなんだ、さすがガリ勉だね」
「ガリ勉はすごい。ユーモアがある」
「ミレイが褒めるなんて珍しいね」
「ヒナ。マサハルに任せておけば、パーティも万全だよっ!」
「パーティ……企画っ! そうだっ! 企画! 考えたの!」
「おぉ、無い頭を振り絞って頑張ったんだね」
「ひどいよーっ! 放課後、作戦会議……いける?」
「おうけいだよ。マサハルは呼んでおく」
「ミレイ、マサヒロだよ」
「私の中ではもう、マサハルなんだよ」
「そっか! 仲良しだねっ!」
「ふふ。仲良しだ」
ケイタだけじゃない。
ミレイの世界も広がっている。
かわいいな。
マサヒロにべったり懐いちゃって。
ミレイってこんな顔するんだ。
ふふ。
可愛いな。
——わしゃわしゃ
「ひな」
「あぁ、ごめんごめんっ! ミレイが可愛くってついつい——」
「もっと」
「もーーー!」
——わしゃわしゃ
◆ご挨拶
『嘘告リベンジ』をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「続きが気になる……」と思ってくださった方は、よかったら応援やレビューをいただけると、嬉しいです。
星は1つからでも大歓迎! そして、読者様とのコメント欄での交流を日々楽しみに生きています。
次回『第21話 黒いどろどろ(ヒナ視点)』の更新は10月31日になります。
引き続き『嘘告リベンジ』をよろしくお願いします!




