第18話 色恋沙汰とかそういうやつだ(ミレイ視点)
——ソファに座って読書するフミタカの膝に頭を乗せて、一時間ほど前から「まだまだか、マサハルはまだ来ないのか」と呟くミレイの頭を撫でるフミタカ。いつもの飯島兄妹の平和な午前中だ。
「お兄ちゃん。マサハルがまだ来ないよ」
「ミレイ。まだマサハルが来る時間じゃないんだ」
「そっか」
「よしよし」
さて、あのバカと約束を取り付けたのはいい。あとはマサハル次第なんだが、あいつはうまくやっているのだろうか。
……ムカつく。
最近マサハルはお兄ちゃんとばっか遊んでいて、私と遊んでくれない。レオンのバカを釣り上げた上に、飯代まで出させることに成功した私を蔑ろにするなんて、あんまりだ。
結局褒めてはくれたがナデナデはしてくれなかったし……。
このゴリラの膝の上は硬いんだよなぁ。こうやって頭を撫でてくれるが、なんか手もあったかくて気持ちいいけど、なんかこう、硬いんだよなぁ。
許さんぞ。マサハル。
しかし、何をやっているんだ。
「お兄ちゃん。マサハルがまだ来ないよ」
「ミレイ。まだマサハルが来る時間じゃないんだ」
「そっか」
「よしよし、いい子にしとけ」
約束の時間まであと10分しかないというのにまだ来ないだなんて、たるんでいるんじゃないか?
プロジェクトマサコのリーダーを奪い取ってやろうか。
まったく。
「お兄ちゃん。マサハルが——」
——ピンポーン
きたっ!
——ガチャ
「はい」
『俺だ』
「合言葉は?」
『**** ***』
「入れ」
やはりマサハルは良い。毎回うちに遊びに来るたびに、異なる合言葉でウィットに富んだ罵詈雑言を投げかけてくる。
だからこいつと遊ぶのは面白いんだ。
お兄ちゃんと二人で住むようになっても、夜は全然寝れなかったのに、プロジェクトマサコで疲れるせいか、最近はゲームをやらなくても、ぐっすり眠れるようになってしまった。
このガリ勉は夜の11時には寝るし、夕方以降のガリ勉タイムに連絡しても返ってきやしない。
こいつと遊んでやらなきゃいけないってなると、昼間に寝てる時間なんてないわけだ。
世話がやけるこった。
まったく。
ガリ勉のせいで眠り姫は卒業か……。
まあいい。
——コンコン
きたっ!
「入れ」
「おじゃましまーす」
きた!
◇
「んで、フミタカ兄貴よぉ、タイトルやら紹介文やらってのはわかったんだけどヨォ、再生時間と収益の関連ってのは、広告を何本挟んだかってので見ていけばいいわけか?」
「うむ。大体五分程度の動画だったら広告は一本。多くても……二本だな。それ以上ユーザーに負荷を与えると、そもそもの再生数が落ちたり、広告を開いた瞬間ブラウザを閉じられたらそれはカウントされなかったりする」
「五分に一本かぁ、このショート動画ってやつはそもそも広告が入ってねぇってことは、それ単体で収益化できるような代物じゃねえってことだな? つまり、チャネルの一本として、そこから本店に誘導するためのフックってことか。ショート動画で商品を紹介して、ECで買わせる。おもしれーなぁマーケティングってのは」
「大体合ってる。何も説明していないのに、よくわかるな……」
「ふんっふんっ」
——ペチペチ
「いたっ……くはねえけどヨォ、ミレイ。今ぁ俺とフミタカ兄貴は大事な話をしてんだ。ふざけるのは後にしねーか? ある程度こっちで知識をつけておかねぇと、レオンが動画の話やらマーケティングの話やらをするときに、ただ頷いて『さすが〜、知らんかった〜、すご〜い、センスいいね〜、そうなんだ〜』しか言えねえバカ女になっちまうだろうが」
「バカ女じゃダメなの?」
「悪かねえけど、そんなバカ女にマジ惚れするほど女に飢えちゃあいねえだろ。あのバカはあれはあれでモテるバカだからなぁ。本気で惚れさせるんなら、見た目だけじゃねぇ、ユーモアとインテリジェンスが必要なんだよ」
「マサハルはユーモアとインテリジェンスがあるのが好きなの?」
「まぁ、バカよか全然いいな。男でも女でもわざわざつまんねーヤツとつるまねえだろ」
「そういうもんなんだね」
「あぁ」
そっかぁ。
マサハルはユーモアとインテリジェンスがある女が好きなのか。
ヒナは……可愛いし面白いけど、ユーモアって感じじゃないよなぁ。インテリジェンスは……かけらも感じないね。
リコも、コトネも、ナナも……頭は良くて、面白いけど、ユーモア……ユーモアってなんだろうなぁ。
「マサハル」
「ん?」
「クラスに好きな子とかいないの?」
「どうした突然」
「ユーモアとインテリジェンスがあるってのがイメージがわかない」
「あぁ、そういうことか」
「ユーモアとインテリジェンス」
「んんん〜そうだなぁ、ユーモアはともかく、インテリジェンスが問題だよなぁ。二年五組だろ? ん〜。『ケイタのプロフィール帳』が欲しくなってくるな」
「何それ」
「まぁ、そういうのがあるんだよ」
「へぇ」
「うちのクラスだと、ミレイがそうなんじゃねーか? なかなかおもしれーし、話も通じるしな」
「じゃぁ、マサハルは私のことが好きなの?」
「色恋沙汰とかそういうんじゃねーけど、嫌いだったらこうしてねーだろ」
「そっか」
「で、カメラはどこにあるんだ?」
「ないよ」
何回目だこのやりとりは。肝心なところでいつも茶を濁すんだこのバカは。
こいつ……本質的には、ヒナやケイタと変わらないんじゃないか?
私はバカじゃないからわかっている。
多分あれだ……マサハルが好きなんだ。
これは色恋沙汰とかそういうやつだ。
だってほら……ドキドキしているじゃないか。
お兄ちゃんのことだってまぁ、好きだけど……。
全然違う。なるほど、これが恋というやつか。実に興味深い。
しかし、このガリ勉は本当にデリカシーが無いのか、それとも女に興味がないのか……。
確かに、色恋沙汰は受験が終わってからと決めていると、自分で言っていたし、それを邪魔するってのもなんか違う気がする。
そうは問屋が下さんぞ。
私の昼夜を逆転させた責任は取ってもらうからな。
絶対に興味を持たせてやる。
ユーモアとインテリジェンスか。
……。
「マサハル」
「あ?」
「ラーテルという動物は、イタチ科に属する体長七十センチ程度の哺乳類で、世界一怖いもの知らずとも呼ばれている」
「あぁ。ラーテル? ラーテルっつったら、かなり分厚くて丈夫な皮膚を持ってっから、ライオンやらなんにゃらの牙なんぞに簡単にやられるタマじゃねえってやつだな。コブラやらの毒にも耐性があって、一瞬気絶した後にすぐ目覚めるやべーやつだろ? それがどうした?」
「くっ……やるなあマサハル」
「?」
ユーモアとインテリジェンスでこいつに勝負を仕掛けるのはなかなか骨が折れるな……まあいい。
今日はプロジェクトマサコの作戦会議だ。
まったく。まじめにやれ。
遊びに来たのかこいつは。
困ったやつだ。
しかし、私は恋だなんだというのは初めてなんだが……。
マサハルに「好きだ」なんぞと言われて浮かれていたら「嘘でしたベロベロバー」なんてなったら……。
八つ裂きだな。
ふっ。
レオンをシバくのは面白そうだと思っていたが……。
マサコに惚れるフェーズまでいけたら最高だな。
やつも一度実感したほうがいい。
好きになった相手に騙される屈辱を。
俄然面白くなってきた。
◆ご挨拶
『嘘告リベンジ』をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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星は1つからでも大歓迎! そして、読者様とのコメント欄での交流を日々楽しみに生きています。
引き続き『嘘告リベンジ』をよろしくお願いします!




