第17話 ミッションコンプリートって奴だな(ミレイ視点)
くそっ。
あの日お好み焼き屋でメガネを外した時から気づいていたが……マサハルのやつは可愛い顔をしてやがる。とてつもなく。
なんてこった。元々持ち合わせてもいなかった女としてのプライドをへし折られた気分だ。私の化粧スキルなど薄味もいいところだというのに、素材が良すぎるせいでこのざまだ。
……。
それにしても、お兄ちゃんはなんでウィッグだとか、シリコンバストだとか、おかしなものを持っているのだろうか。
まあいい。
私は任されたことを実行する。
それだけだ。
◇
レオンは……ぼけっとしているな。
なんてアホヅラなんだこいつは。
……。
よし、頃合いか。
プロジェクトマサコ……始動。
「ヒナ、この子見たことある?」
「ん〜? 無いけど……可愛い子だねー」
「ねー」
「ミレイも負けてないよっ!」
「ほーん」
本当に単純な男だな。女子がわちゃわちゃしてればすぐにスマホをのぞいてくる。そんなんだから簡単に釣られるんだ。
この間お兄ちゃんに連れて行ってもらった釣り堀の鯛よりも簡単に釣られおってバカめ。
ふふ。頃合いだな。
「ねえ」
「お?」
「何覗いてんの」
「あ、いや、何見てんのかなーって」
「キモい」
「んで、何見てんだ?」
マサハルの読み通り……興味を持ったみたいだな。どれ。この一番すけべなマサハルを……いや、マサコのダンスを見せてやろう。
このどすけべなマサハルを見て、このすけべがどんな反応をするか……実に興味深いな。
「ん。中学の時の友達がチックタック始めたっていうから……」
「え!? これ友達なの!?」
「そう。同級生」
「マジかよ!?」
「可愛いよね。動画あげたばっかなのに、めっちゃ伸びてる」
「……!? 本当だ! すげーな!」
「ねー。可愛いしスタイルもいいからすぐに有名になるんじゃないかな」
「確かにエロい女だな」
見る目があるじゃないかレオン。お前もそう思うか。しかし歯に衣着せぬ男だな。もう少しデリカシーを持った方がいいんじゃないか?
まったく。
「キモい」
「いいなあ女は、可愛けりゃ編集なんか適当でも伸びちまうんだからよ」
「品のない男だ」
「事実だろ? 実際この動画も、スマホで撮ったやつにエフェクト入れただけの素人仕事だし」
……。
『あー、フミタカ兄貴。編集はかなーり雑で良い。雑にエフェクト入れて、雑に音合わせて、雑な画角で撮る。被写体の素材が爆裂に見えりゃぁそれでいい。あとは数値の欄をバグらせて、派手にバズってるように見せりゃぁ、レオンの教えるおじさん欲に火が付くって寸法よ』
『なるほど。編集がうますぎると食いつく方向性が変わるってことか』
『あぁ。歌って踊れて編集もフミタカ兄貴水準ってなったら、さすがのレオンもドン引きだ。隙を見せる。ツッコミどころが餌ってわけだ』
『ガリ勉はそんなことも勉強するのか? すげーな。ほんじゃぁ、こっちはどうだ?』
『エクセレントじゃねーかフミタカ兄貴! ミレイ! こいつでいこう!』
『らじゃー』
……。
マサハルはどこまで読んでいるのだろうか。怖くなってきた。
「まぁ、たしかにその点は『課題だー』って言ってた気がする」
「ほー。分かってはいるみたいだな」
「まぁ、勉強ができる子ではあるね」
「ほー?」
勉強ができる子どころじゃない。ガリ勉だ。我々の学年一位どころか全国模試でも上位をキープしているガリ勉だ。
「何?」
「俺、教えようか」
「何を?」
「動画編集とか、タグの付け方とか、タイトルについてとか」
「あんた、そんなことできるの?」
「それなりにな。ほら、これ、俺のチャンネル」
『女性チックタッカーが一発屋で終わらないために学ぶべき5つの理論 @Re.Sound.T-horizons』
お、例のチャンネルはやっぱりレオンのだったんだな。
……。
お兄ちゃんも褒めてたけど、やっぱり編集はうまいんだな。バカなのに。
もっと人の役に立つことにこのスキルを使える奴だったら……別に何も起こらないか。
「たしかに。再生はあんまされてないけど、おもしろいね。編集がうまい」
「おおっ! わかるのか!」
「まぁ、確かに……。例のクソ動画も編集には無駄に凝ってたもんね」
「クソ動画とか言うな! 俺の最高傑作を!」
「コンプラ意識が足りないね」
「アレはまぁ、おもしれーかなって思ったんだよ! ケイタも気にしてねーって言ってるし、いいじゃねえか!」
「動画編集がうまくても感性がイカれてる、キモセクハラファック野郎に女友達を紹介するのはちょっとなあ」
「ひでえ言い様だな!?」
「ヒナにもセクハラするし」
「わかった! 絶対にセクハラはしない! 下ネタも禁止だ! 真摯に動画編集者として向き合わせてくれ!」
「ん〜」
別に相手はマサハルだ。セクハラだろうが下ネタだろうが好きにすればいい。さて、頃合いか。十分針に食いついただろう。
あとは釣り上げるだけだ——。
「頼む! その日の飯は俺が奢るからさ!」
おっと? コイツァ嬉しい誤算だな。予算から食事代をカットできるわけだ。お兄ちゃんの財布に負担をかけなくて済むならそれがいい。
「何を?」
「お好み焼き!」
「お好み焼きはマサハルといくしなー」
お前はどうせお好み焼きをぺんぺんするだろ。そんなのはダメだ。私はもうマサハルの焼いたお好み焼き以外を受け付けない体にされてしまったんだからなあ。
「わかった! じゃあ、一人二千円までならどの店でも好きな場所を選べ! 頼む! これが俺の限界だ!」
「ふむ。そこまで言うなら……しゃーないかぁ」
「サンキューミレイ!」
「紳士でいろよ?」
「任せとけ!」
ふっ。私だってやればできる。魚を釣り上げるなんてのはお茶のこさいさいだ。
それどころか、飯まで奢らせる約束を取り付けてやったぞ。
ミッションコンプリートって奴だな。
さて、マサハルに褒めてもらいに行くか。
そろそろ照れずに頭を撫でるくらいのことをしても良いんじゃないか?
私ばかりじゃないか、撫でてやってるのは。
不公平だと思わないのだろうか。あのガリ勉は。
まったく。




