第11話 確かにエロい女だな(レオン視点)
ケイタが最近おかしい。少し前まではヒナにベッタリだったのに、最近はマサヒロとばかりつるんでいる。奴のガリ勉が変な方向に感染してしまったのか、休み時間になると謎のノートを片手に、クラスメイトの身辺調査みたいなことを始めている。
俺にも普通にインタビューをしてきた。ケイタはやはり、例の動画のことは気にしていないみたいだ。あれからマサヒロだけでなく、ミレイにも、コトネにも、ユウマにも小言を言われたが、ケイタは最初から一貫して「気にしていない」と言っている。
まったく。神経質な連中だよ。まぁ、神経質ではありつつも、当人同士で納得しているのであれば、いつまでもグダグダ言ってくる連中ではないので、助かった。もしかしたらいつまでもあのことを気にしているのは、俺の方なのかもしれない。
ちなみにゲーム機に関しては、ヒナの親が個人賠償責任保険とやらに入っていたらしく、諸々の手続きをすれば保険金で弁償が可能とのことだった。しかし、サポートに問い合わせたところ、無料で修理、もしくは新品交換の対象だったので、弁償は断った。もちろん体での支払いも無し。まだしばらくは、清い体でいることになりそうだ。
十月はハプニングの多い月だったが、大体の問題は解決したと考えて良いだろう。唯一残った問題といえば、俺の動画チャンネルが鳴かず飛ばずの状況から、一向に抜け出せないってことだけだ。嘘告動画も使えねーわけだし、どこかに良いネタは転がっていないものか。
……。
むむ?
「ヒナ、この子見たことある?」
「ん〜? 無いけど……可愛い子だねー」
「ねー」
「ミレイも負けてないよっ!」
「ほーん」
何やらヒナとミレイが動画を見ながらはしゃいでいる。横目で覗いてみると、どうやら可愛い女の子が流行りのダンスを踊るショートムービーを見ているようだ。俺は結構この手のインフルエンサーには詳しいんだが、見たことのない子だな。
新人か?
「ねえ」
「お?」
「何覗いてんの」
「あ、いや、何見てんのかなーって」
「キモい」
「んで、何見てんだ?」
スマホ画面を覗いているのがバレてしまった。まぁいい。別にそんなかしこまるような仲でもないんだから、堂々と見せてもらおう。
「ん。中学の時の友達がチックタック始めたっていうから……」
「え!? これ友達なの!?」
「そう。同級生」
「マジかよ!?」
「可愛いよね。動画あげたばっかなのに、めっちゃ伸びてる」
「……!? 本当だ! すげーな!」
「ねー。可愛いしスタイルもいいからすぐに有名になるんじゃないかな」
「確かにエロい女だな」
「キモい」
「いいなあ女は、可愛けりゃ編集なんか適当でも伸びちまうんだからよ」
「品のない男だ」
「事実だろ? 実際この動画も、スマホで撮ったやつにエフェクト入れただけの素人仕事だし」
こっちは編集技術を磨いて、タイトルもディスクリプションもタグ付けも研究してるってのに、ちっとも再生数が伸びねえ。それが、可愛い女が踊ってるだけでこの数字だ。理不尽にもほどがあるだろ。
「まぁ、たしかにその点は『課題だー』って言ってた気がする」
「ほー。分かってはいるみたいだな」
「まぁ、勉強ができる子ではあるね」
「ほー?」
これは……。神に与えられた千載一遇のチャンスなのかもしれない。自分が演者として動画に出演するってのも考えたが、俺はどちらかというと、編集やらマーケティングの方が性に合っている。このエロ女をうまくプロデュースすれば、絶対に動画を伸ばせる。確信がある。
「何?」
「俺、教えようか」
「何を?」
「動画編集とか、タグの付け方とか、タイトルについてとか」
「あんた、そんなことできるの?」
「それなりにな。ほら、これ、俺のチャンネル」
どうだ……。くそっ。クラスの奴にチャンネル見せるのって、ちょっと緊張するな。動画単体を見せるのとはわけが違う。なんというか……尻の穴を見られている気分だぜ。
ミレイに、尻の穴を……? それはそれで……悪く無い……かも?
「たしかに。再生はあんまされてないけど、おもしろいね。編集がうまい」
「おおっ! わかるのか!」
「まぁ、確かに……。例のクソ動画も編集には無駄に凝ってたもんね」
「クソ動画とか言うな! 俺の最高傑作を!」
「コンプラ意識が足りないね」
「アレはまぁ、おもしれーかなって思ったんだよ! ケイタも気にしてねーって言ってるし、いいじゃねえか!」
「動画編集がうまくても感性がイカれてる、キモセクハラファック野郎に女友達を紹介するのはちょっとなあ」
「ひでえ言い様だな!?」
「ヒナにもセクハラするし」
「わかった! 絶対にセクハラはしない! 下ネタも禁止だ! 真摯に動画編集者として向き合わせてくれ!」
「ん〜」
お、反応が変わったぞ。よし、あと一押しだ。ミレイが何を欲しがっているかなんて簡単だ。飯だ。飯を食わせればこいつはすぐに揺れる。
「頼む! その日の飯は俺が奢るからさ!」
「何を?」
「お好み焼き!」
「お好み焼きはマサハルといくしなー」
「わかった! じゃあ、一人二千円までならどの店でも好きな場所を選べ! 頼む! これが俺の限界だ!」
「ふむ。そこまで言うなら……しゃーないかぁ」
「サンキューミレイ!」
「紳士でいろよ?」
「任せとけ!」
よし。舞い降りたチャンスを逃さない。それが俺だ。ケイタのバカとはそこが違う。
高平礼音様のサクセスストーリー第一章の始まりだ!
◇
待ち合わせ場所である駅前の広場についた。遅刻しなかったのは良いが、少し早く到着してしまったな。まだ約束の時間までは15分もある。路駐している車のスモークガラスに顔を映し、髪が乱れていないかチェック。よし、いつも通りのイケメンだ。
——ヒュウウウ
「ぶわっしょい!」
やべっ! めっちゃ鼻水が垂れちまった! 助手席のガラスに鼻水がべっちゃりだ。
——ウィーーーン
「おい」
「すすすす! すみませんでした!」
「気をつけろよ」
——ウィーーーン
路駐の車は無人ではなかったようだ。運転席に座っていた強面のヤンキーお兄さんが、穏やかな人で助かった。北の方には、たまにマジでやばいやつがいるから、気をつけないとな。心臓がバクバクいってる。
「なにやってんの?」
「え?」
「知り合い?」
「いや」
「まあいっか」
「おう」
どうやら一部始終を見られていたらしい。くそっ。いつも眠そうにしているはずのミレイがこんなに早く現れるとは。ミレイは珍しくメガネをかけている。こいつはそんな目が悪かったっけ?
「ミレイ、メガネって珍しいな?」
「ゲームやる時はいつもかけてるよ」
「そうなのか? ミレイもゲームとかやるんだな」
「プロ並みだよ」
「よくいうぜ」
「やんのか?」
「今度な」
「別に今からでも構わんが? リスキルしてやる」
「物騒な上にマナーの悪いことを言うんじゃねーよ」
「休日にわざわざレオンに会いにきた甲斐があったよ。さあ、戦場へ——」
「ハハッ! ミレイ! なんの話をしてるの!?」
ミレイの横に立つ美女が助け舟を出してくれたようだ。危ない危ない。これから食事へ向かおうとしているのに、なぜか戦場へ連れていかれるところだった。
「あー。ごめん」
「ふふ。お友達に紹介してもらっていい?」
「うん。これ、レオン」
「これとはなんだ!」
「うるさい。この子が例のチックタックの子で、北條雅子」
「あ、よろしくお願いします。高平礼音です。北條さん……古風な名前ですね」
「初めまして。北條です。ふふ。よく言われます。歴史的偉人みたいだって」
「あははは! 朝廷と揉めてはいけませんよ!」
「ふふ。御恩次第……ですかね。歴史はお好きですか?」
「大好物です!」
インフルエンサーなんて、大抵は美肌ライトを当てて、加工技術によって変身した存在だというのに、実物の北條さんは、動画で見たそれよりも遥かに美しかった。
身長は160cmくらい。女性としては高めでスタイルが良い。サラサラのロングヘアーに、驚くほどぱっちりした二重。長いまつ毛はくるりとカールしていて、ナチュラルメイクがよく似合う。
なんというか、派手な化粧で飾り立てるんじゃなく、元の素材の良さを活かしたタイプの美人だ。薄暗い田舎町の街灯に照らされたその姿には、どこか儚げな雰囲気が漂っていた。
俺の動画を伸ばすためにお近づきになったわけだが、いかん。すでに若干惚れかけている。まさかこんな北関東のど田舎、しかも同学年にこんな美女が存在したとは。
「——オン」
「……」
「レオン」
「!? お、おう」
「雅子に見惚れてたの?」
「そ、そんなんじゃねーよっ!」
「そう? まあいいや。お店、予約しといたから行こう」
「おう」
「今日は一人二千円までならレオンが出してくれるってさ」
「いいんですか?」
「もちろんです! 漢ですからっ!」
「ふふ。ありがとうございます」
クゥー! よくやってくれたぜミレイ!
ふふふ。
北條さん……雅だぜ。
◆ご挨拶
『嘘告リベンジ』を読んでくれてありがとうございます。
続きが気になってくれたら、フォローや応援コメントをしてくださると、めちゃくちゃ喜びます。
星は1つからでも励みになります。
読者様とコメント欄でコミュニケーション取れるのが、仕事終わりの楽しみとなっていますので、ぜひコメントいただけると幸いです。




