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五つ目の星が灯らなくても ~最高位になれなかった侯爵令嬢が自分の人生を選ぶまで~  作者: 水瀬める


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4



《再星の儀》の日。


王都大神殿の最奥に集められたのは、今年選ばれた五人だけだった。


家族も侍従も入ることは許されない。いるのは大神官と数人の神官、そして再星者だけ。


エレナは最後の順番だった。


静かな儀式の間には白い祭壇が置かれ、女神像の足元を淡い光が満たしている。




最初に祭壇へ進んだのは、《第四星位・セレスティア》の男性だった。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


そして――五つ目。


光が現れた瞬間、儀式の間に小さなどよめきが起こった。


《第五星位・エンピレオン》。


エレナは思わず息を呑む。


本当に、上がるのだ。




二人目は、《第三星位・アステル》の女性だった。


一つ、二つ、三つ。


光はそこで止まった。


「星位は、《第三星位・アステル》のままです」


大神官の言葉に、女性の表情がほんの少し揺れる。


けれど、大神官は穏やかに続けた。


「ですが、三年前とは異なる光です。女神は、あなたの内に確かな変化があったことを示されています」


女性は一瞬だけ唇を噛み、それから小さく微笑んで礼をした。




三人目は、《第四星位・セレスティア》。


一つ、二つ、三つ、四つ。


それ以上、光は増えなかった。


大神官はやはり、三年前とは光のあり方が違うと告げる。


エレナは少しだけ安心した。


そういうこともあるのだ。


星が増えなくても、再星へ招かれたこと自体に意味はある。何かを失うわけではない。




そして、四人目。


《第三星位・アステル》の青年が祭壇へ進む。


一つ。


二つ。


三つ。


そこで、少し間が空いた。


やがて四つ目が現れ、誰かが息を呑む。


さらに――五つ目。


淡い光が五つ、並んだ。


三つから、一気に《第五星位・エンピレオン》。


今度は先ほどより大きなどよめきが起こった。


青年自身も信じられないという顔で、五つの光を見つめている。


エレナの指先が冷たくなる。


三つから、五つ。


なら。


自分にも。




「次の方」


大神官の声が響いた。


「エレナ・ルーヴェル」


エレナは祭壇へ進む。


静かな室内に、自分の足音だけがやけに大きく響いた。


白い祭壇の前に立ち、息を整える。


やがて、一つ目の光が現れた。


二つ。


三つ。


四つ。


三年前と同じ。


そこから、エレナは待った。


先ほどの青年も、三つで止まったあとに四つ目が現れた。


そして、五つ目が灯った。


だから、まだ。


四つ目の光が、かすかに揺れている。


エレナの胸が大きく鳴った。


――お願い。


そう願った瞬間、自分自身が驚いた。


こんなにも欲しかったのか。


王宮を辞めるため。


ただの区切り。


自由になるための許可証。


そのはずだった。


けれど今、この瞬間だけは違った。


エレナはただ、五つ目の星が欲しかった。


《第五星位・エンピレオン》になりたい。


誰かに認められたい。


自分はもっとできるのだと、そう証明してほしい。


四つ目の光が、もう一度揺れた。


そして静かに落ち着いた。


四つ。


その隣には、何も現れなかった。


しん、と儀式の間が静まる。


「エレナ・ルーヴェル」


大神官の穏やかな声が響いた。


「あなたの星位は――《第四星位・セレスティア》」




三年前と同じ。


「ですが、女神が再びあなたをここへ招かれたことに、意味がないわけではありません」


大神官は四つの光を見上げる。


「三年前とは違う光です。あなたの魂のあり方が、この三年で確かに変化した。そのことを、女神は示されているのでしょう」


慰めではない。


少なくとも、大神官はそんなつもりで言っているのではないと、エレナにも分かっていた。


《星籍》が銀色に輝いたのも、エレナの内に何かしらの変化があったからだ。


女神は一度も、


――足りない。


などと言っていない。


それでも、胸の奥にはぽっかりと穴があいたような感覚が残った。


「……ありがとうございます」


礼をする。


声は震えなかった。


それだけは、少しだけほっとした。


神官から星章を返される。


三年前と同じ、四つの小さな星。


十五歳の自分は、それを見て、


――四つもある。


と思った。


今は。


――ひとつ足りない。


そう見えた。


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