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《再星の儀》の日。
王都大神殿の最奥に集められたのは、今年選ばれた五人だけだった。
家族も侍従も入ることは許されない。いるのは大神官と数人の神官、そして再星者だけ。
エレナは最後の順番だった。
静かな儀式の間には白い祭壇が置かれ、女神像の足元を淡い光が満たしている。
最初に祭壇へ進んだのは、《第四星位・セレスティア》の男性だった。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
そして――五つ目。
光が現れた瞬間、儀式の間に小さなどよめきが起こった。
《第五星位・エンピレオン》。
エレナは思わず息を呑む。
本当に、上がるのだ。
二人目は、《第三星位・アステル》の女性だった。
一つ、二つ、三つ。
光はそこで止まった。
「星位は、《第三星位・アステル》のままです」
大神官の言葉に、女性の表情がほんの少し揺れる。
けれど、大神官は穏やかに続けた。
「ですが、三年前とは異なる光です。女神は、あなたの内に確かな変化があったことを示されています」
女性は一瞬だけ唇を噛み、それから小さく微笑んで礼をした。
三人目は、《第四星位・セレスティア》。
一つ、二つ、三つ、四つ。
それ以上、光は増えなかった。
大神官はやはり、三年前とは光のあり方が違うと告げる。
エレナは少しだけ安心した。
そういうこともあるのだ。
星が増えなくても、再星へ招かれたこと自体に意味はある。何かを失うわけではない。
そして、四人目。
《第三星位・アステル》の青年が祭壇へ進む。
一つ。
二つ。
三つ。
そこで、少し間が空いた。
やがて四つ目が現れ、誰かが息を呑む。
さらに――五つ目。
淡い光が五つ、並んだ。
三つから、一気に《第五星位・エンピレオン》。
今度は先ほどより大きなどよめきが起こった。
青年自身も信じられないという顔で、五つの光を見つめている。
エレナの指先が冷たくなる。
三つから、五つ。
なら。
自分にも。
「次の方」
大神官の声が響いた。
「エレナ・ルーヴェル」
エレナは祭壇へ進む。
静かな室内に、自分の足音だけがやけに大きく響いた。
白い祭壇の前に立ち、息を整える。
やがて、一つ目の光が現れた。
二つ。
三つ。
四つ。
三年前と同じ。
そこから、エレナは待った。
先ほどの青年も、三つで止まったあとに四つ目が現れた。
そして、五つ目が灯った。
だから、まだ。
四つ目の光が、かすかに揺れている。
エレナの胸が大きく鳴った。
――お願い。
そう願った瞬間、自分自身が驚いた。
こんなにも欲しかったのか。
王宮を辞めるため。
ただの区切り。
自由になるための許可証。
そのはずだった。
けれど今、この瞬間だけは違った。
エレナはただ、五つ目の星が欲しかった。
《第五星位・エンピレオン》になりたい。
誰かに認められたい。
自分はもっとできるのだと、そう証明してほしい。
四つ目の光が、もう一度揺れた。
そして静かに落ち着いた。
四つ。
その隣には、何も現れなかった。
しん、と儀式の間が静まる。
「エレナ・ルーヴェル」
大神官の穏やかな声が響いた。
「あなたの星位は――《第四星位・セレスティア》」
三年前と同じ。
「ですが、女神が再びあなたをここへ招かれたことに、意味がないわけではありません」
大神官は四つの光を見上げる。
「三年前とは違う光です。あなたの魂のあり方が、この三年で確かに変化した。そのことを、女神は示されているのでしょう」
慰めではない。
少なくとも、大神官はそんなつもりで言っているのではないと、エレナにも分かっていた。
《星籍》が銀色に輝いたのも、エレナの内に何かしらの変化があったからだ。
女神は一度も、
――足りない。
などと言っていない。
それでも、胸の奥にはぽっかりと穴があいたような感覚が残った。
「……ありがとうございます」
礼をする。
声は震えなかった。
それだけは、少しだけほっとした。
神官から星章を返される。
三年前と同じ、四つの小さな星。
十五歳の自分は、それを見て、
――四つもある。
と思った。
今は。
――ひとつ足りない。
そう見えた。




