第10話「好きなもの」
翌日、朝6時ちょうどから暖気が始まる。
サービスパークが賑やかになる。
ヴィッツが暖気をしている隣で真紀、奏汰、福原、日野森の4人で今日のセッティングや注意事項を話し合っていた。
「今日の最初のSS3は昨日までの2つより若干短いので、昨日よりプッシュしてもいいかと思います。」
「でも、それができるのはSS3だけ?」
「そうなりますね。SS3以降はもとの長さになるので、SS3のようなハイペースで走るとオーバーヒートなどをまねきかねないです。」
「わかりました」
「あと、SS4は後半にコーナーが連続するので前半はブレーキをいたわる方向でお願いします」
「了解です。任せてください。」
「自信十分だね。がんばってね」
「はい」
真紀と奏汰が乗り込み、テントを離れていく。
「奏汰くん…」
穂乃果は奏汰に対して何か思いがあるようだ。
リエゾン区間を走行中のヴィッツ。
『奏汰くん』
「なんですか?」
『今日のSSどっちが奏汰くんにとってやりやすい?』
「ん〜…でも自分的には短い区間の方がいいですね。今までのカートがスプリントレースだったのもあって」
『そうなのかー。でも明日のSS5は一番の長丁場になりそうだよ?』
「そうですね…まぁ、やることやれば結果ついてきますよ、多分」
そしてSS3の待機エリアに来た。
クラスごとにエリアが分けられており、HR-1クラスのエリアに誘導される。
マシンを降り、周りを見渡す。
HR-1クラスの後ろの方を見るとヤリスがたくさんいた。
「真紀先輩、なんであんなにヤリス多いんですか?」
「あぁ、あれね。あれはね、ヤリスを選ぶとトヨタからエンジンとか予備パーツを供給して貰えるの」
「なるほど、確かにそういうサポート得られるのいいですね」
「うちみたいにマシンを一から用意してから、やるよりも費用もかからないと思うしね。まぁ、壊したら多分変わらないかもしれないけどね」
その時、HR-Xクラスの産浜高校のマシンが轟音を響かせながらスタートゲートに向かっていった。
「…」産浜高校のシトロエンDS3を見つめる。
「奏汰くん、あの高校気になるの?」
「え、いや。なんか、WRCにいそうなマシンだなぁって」
「あぁ、産浜のあのシトロエンのマシン、実際にWRCの入門シリーズにいたマシンを引き取ったものらしいよ」
「やっぱり。昨日夜走ってるのをみて足回りの動き方とかかなり本物のラリーカーみたいな動き方しているなって」
「すごい…そんなところまで見てるんだ」
「まぁ。そうゆうメカニカルなところも好きなんで。」
「もう両方できるじゃん。ドライバーもメカニックも」
「そうっすね。やろうと思えば両方できると思いますよ。」
「すごいじゃん。」
「なんか照れますね」
〈愛豊高校!スタートゲート前に来てください!〉
「さ、行こうか」
「はい!」
2人がヘルメットを被りマシンに乗り込む。
エンジンをかけ、表示されるモニターのデータを確認していく。
「内圧よし…油温、水温もよし。OK、行こう。」
ギアを1速に入れ、ゆっくりとスタートゲートに向かう。
『SS3は昨日までのSSより短めだから、かなりペースが重視されると思うよ。だけど、破綻はしないように』
「わかってますよ。大丈夫です。」
スタッフがタイマーを確認するように指差す。
そこに表示された数字が少しずつ小さくなっていく。
『GO!』
その言葉に促され、勢いよく走り出していく。
『左4からストレート300mから右5』
ヴィッツがガードレールスレスレを通過していく。
WRCさながらの、車幅を完全に理解しているような走りをしていく。
「…」
一言も発さず、ただステアリングを切り、ギアを変え、アクセルワークだけでコーナーを駆け抜けていく。
ブレーキはほとんど踏まない。
非力なエンジンの能力を限界まで引き出そうとする。
この時、すでに不穏な足音が聞こえ始めていた。
SS3のフィニッシュラインを通過する。
『よし…今回もトップタイム。お疲れ様。あとはSS4だよ。次は距離が伸びるよ。あと、コーナーも連発するから気をつけてね』
「わかってます」




