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第18話 お茶会(6)

数日後。


アルヴェイン公爵家の応接室。


重厚な木の扉の奥には、

落ち着いた香りが漂っていた。


窓には

淡い色の厚手のカーテン。


柔らかなひだが

午後の光をやさしく受け止めている。


磨き上げられた家具。

窓際には季節の花が飾られていた。


丸い卓の上には

白磁に金の縁取りが施されたティーカップ。


薄く湯気の立つ紅茶と、

小さく整えられた焼き菓子。


甘い香りが

静かに部屋へ広がっていた。


そこにいたのは五人だった。


アルヴェイン公爵夫人。

サラ。

エリオス。

ノア。

そしてリリアナ。


アルヴェイン公爵夫人――

王の妹であり、サラの母。


栗毛色の髪と

澄んだ青い瞳は娘とよく似ている。


だがその微笑みには

長く社交界の中心にいた者だけが持つ

余裕があった。


華やかで、柔らかい。

それでいて

どこか人を見抜くような目。


その視線が

興味深そうにリリアナを見ていた。


「あなたがバルディエ家の令嬢ね」


リリアナは立ち上がり、

礼を取る。


その動きは

流れるように静かで、

寸分の乱れもなかった。


招かれた客として

これ以上ないほど整った礼だった。


エリオスの視線が

ほんの一瞬だけ止まる。


公爵夫人が感心したように笑った。


「綺麗な礼ね」


「今すぐ王宮でも通用しそうだわ」


「サラにも見習わせたいくらいね」


サラが小さく笑う。


「お母様」


リリアナは微笑む。


「恐縮です」


公爵夫人は紅茶を口に運びながら言った。


「噂は聞いているのよ」


「例の絹のこと」


「どうも、あなたが流れを作っているらしいわね」


アルヴェイン公爵家の

広い情報網だった。


リリアナは静かに頷く。


「はい」


「良い絹を作っている土地を見つけまして」


「途絶えそうになっていたので」


「少し整えました」


公爵夫人が目を細める。


「整えた?」


「それだけじゃないでしょう」


リリアナは少し考えて答えた。


「絹は」


「蚕を育てる人」


「糸を取る人」


「糸を織る人」


「それぞれが揃わないと続きません」


「どこか一つ欠けると

すぐに品質が落ちます」


「ですから」


「桑畑を増やして」


「蚕を育てる家を守り」


「糸を取る職人を戻し」


「織る工房を整えました」


「そうすれば」


「良い絹は続きます」


公爵夫人は

面白そうに笑った。


「なるほど」


「ただ仕入れるだけじゃないのね」


「作るところから整えている」


リリアナは頷く。


「その方が」


「良いものは長く続きますので」


公爵夫人は

感心したように息をついた。


「あなた」


「この国の産業に

ずいぶん尽力しているのね」


リリアナは静かに答える。


「微力ですが」


「この国のために」


「お力になれれば」


そのとき


リリアナの視線が

ほんの一瞬だけ


エリオスと

その隣に座るサラへ向いた。


王太子と王太子妃。


いずれこの国を支える二人。


少しでも

あの人の役に立てれば。


そう思って

整えた絹だった。


公爵夫人は楽しそうに笑った。


「面白い子ね」


「気に入ったわ」


少し考えるようにしてから言う。


「うちの息子の嫁にどうかしら」


紅茶のカップが

わずかに止まる。


エリオスだった。


公爵夫人はさらりと言う。


「婚約者を探しているのよ」


「四つ下だけど」


「なかなか面白い子よ」


「あなたみたいなしっかりした子が

来てくれたら安心だわ」


エリオスがカップを置く。


「おばさま」


珍しく

少し慌てた声だった。


「それは」


「少し早急ではありませんか」


「エドワードはまだ

初等部です」


公爵夫人が笑う。


「夫婦はね」


「女性が年上の方が

うまくいくこともあるのよ」


エリオスが言いかける。


「そうは言っても――」


そのとき


公爵夫人が

思い出したように言った。


「じゃあ」


「ノアでもいいじゃない」


空気が一瞬止まる。


「やっとエリオスとサラの婚約式も

終わったんだもの」


「今度はあなたの番でしょう?」


「年も近いし」


「読書仲間だって聞いたわ」


「趣味も合うんじゃない?」


ノアは軽く息をつく。


「おばさま」


「リリアナとは

ただの友人です」


公爵夫人が笑う。


「あら」


「今はまだでしょ?」


「その先もあるんじゃないの?」


ノアは少し笑った。


「ありませんよ」


軽い声だった。


だが


エリオスは

黙ったままだった。


公爵夫人が

ふとエリオスを見る。


「そういえば」


「あなたも生徒会で一緒なのでしょう?」


「エリオスから見て

リリアナはどうなの?」


一瞬だけ

静けさが落ちる。


エリオスは少し間を置き答えた。


「……優秀です」


短く、

はっきりとした声だった。


「助かっています」


その言葉に

リリアナの口元が


ほんの少し

やわらいだ。


役に立てている。


それだけで

嬉しかった。


公爵夫人が微笑む。


「そう」


「エリオスがそう言うなら本物ね」



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