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第16話 生徒会(2)

講堂を出ると、

廊下には昼の光が差し込んでいた。


昼食の時間が近い。


学生たちがざわめきながら散っていく。


食堂へ向かう者。

中庭へ向かう者。


リリアナはその流れの中を

静かに歩いていた。


そのとき。


「――バルディエ商会のご令嬢」


柔らかな声がかかった。


振り向く。


数人の令嬢が立っていた。


中心にいる一人の少女が

ゆっくり歩み出る。


整えられた赤銅色の髪。

整いすぎた笑顔。


少女は優雅に言った。


「わたくし、

レイヴンハルト公爵家の

イザベラと申します」


レイヴンハルト公爵家。


王家に最も近い名門の一つであり、

社交界ではノア殿下の婚約候補として

たびたび名が挙がる家でもある。


イザベラ自身も、

その位置に立つことを

隠そうとはしていない。


リリアナは一歩下がる。


「バルディエ家のリリアナでございます」


形式的な挨拶だった。


イザベラは微笑みを深める。


「実は少し驚いてしまって」


「先ほど講堂で、

ノア殿下とお話しされていましたわよね」


取り巻きの令嬢たちが

さりげなく耳を澄ませる。


イザベラは続けた。


「殿下とは

お顔見知りでいらっしゃいますの?」


少し首をかしげる。


「わたくし、

社交界でお見かけしたことがなくて」


「お顔をお出しできないご事情がおありなのではと、

皆さま色々とご想像なさっていましたの」


リリアナは静かに答える。


「生徒会で

ご一緒しております」


それだけだった。


イザベラは

一瞬だけ間を置き、


それから微笑む。


「まあ」


「殿下とお近づきになれるなんて、

素晴らしいことですわ」


それからふと話題を変える。


「それにしても」


「先ほどの講義、

本当に見事でした」


少し首をかしげる。


「てっきり」


「商会のご令嬢ですから」


「金勘定のことしか

ご存知ないのかと思っておりましたの」


取り巻きの令嬢たちが

小さく笑う。


イザベラは続けた。


「ですが、

あれほどの教養」


「きっと家庭教師に

大変お金をおかけになったのでしょうね」


優雅に微笑む。


「さすが

バルディエ商会」


「財力は

本当に素晴らしいですもの」


言葉は丁寧だった。


だが含みは明らかだった。


――金で買った教養。


リリアナは一瞬だけ

静かにイザベラを見た。


それから一歩下がる。


そして礼をした。


宮廷式の礼。


角度も、

動きも、

指先の揃え方まで完璧だった。


王宮教育を受けた者にしかできない礼だった。


周囲の令嬢たちが

思わず息を呑む。


イザベラの笑みが

ほんのわずかに固くなる。


リリアナは顔を上げた。


「お言葉、

ありがとうございます」


それ以上は言わない。


ただ礼だけを残す。


場の空気が、

わずかに変わった。


一瞬の沈黙。


イザベラは微笑みを保ったまま言う。


「……またお話できるのを

楽しみにしておりますわ」


リリアナはもう一度礼をして、

そのまま廊下を歩き去った。


背筋は最後まで真っ直ぐだった。


イザベラはそれを見送る。


笑みを浮かべたまま。


だが。


胸の奥で思う。


――気に入らない。


とても。

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