第2話 白い装束の神殿(3)
名を授かる前に、
子どもたちは、
王族席の前を通り、
祭壇へと進む。
列が動き出した瞬間、
胸の奥が、はっきりと跳ねた。
近づく。
あの席に。
あの人がいる場所に。
歩くたびに、
心臓の音が、少しずつ大きくなる。
足は前に出ているのに、
感情だけが、先に行こうとしていた。
人の列。
祈りの空気。
神殿という場所。
それでも、
距離は、確実に縮んでいく。
リリーは、
気づいたら、顔を上げていた。
金色の髪。
柔らかく光を受ける、その色。
琥珀色の瞳。
こちらを見ているかどうかも、
分からない距離なのに。
胸の奥で、
何かが、ほどける。
それが何かは分からないまま、
視線だけが、彼に向かう。
言葉もなく、
表情も整わないまま、
ただ、
まっすぐに、見てしまった。
エリオスの視線が、こちらに来る。
そのまま、
外れずに、重なった。
そこにあったのは、
特別な感情ではなかった。
探るでもなく、
拒むでもなく、
ただ、視線が置かれている。
前の世界で向けられていたものとは、
何もかもが違う目だった。
隣にいた少女が、
静かに首を傾げる。
「……お知り合い?」
エリオスは、
すぐに首を振った。
「いや」
それだけだった。
否定でも、拒絶でもない。
ただ、事実。
――そっか。
胸の奥で、
高鳴っていたものが、
一気に、落ちていく。
(まだ、だ)
(まだ、出会う前)
そう理解した瞬間、
胸の奥で、
何かが静かに冷えていった。
近くにいるはずなのに、
手の届かない場所へ、
一歩、引き戻されたみたいに。
それでも、
列は止まらない。
名前を知られなくても、
視線が戻らなくても、
足は、
祭壇へ向かって進んでいく。
前に。
ただ、前に。




