第2話 白い装束の神殿(1)
気づいたとき、
世界が、ほんの少し低い位置にあった。
見上げると、
高い天井と、白い光。
——神殿だ。
ついさっきまで、
黒い喪服に包まれていたはずだった。
冷たい棺のそばにいて、
エリオスの頬に、触れていた。
その記憶が、まだ手のひらに残っている。
なのに。
身にまとっているのは、
白い装束だった。
祝福のための衣。
柔らかくて、軽くて、
動くたびに、かすかな音を立てる。
——え?
視線を落とす。
自分の身体が、小さい。
腕も、指も、
覚えているより短い。
胸の位置も、
視線の高さも、
すべてが、違う。
司祭の胸元が、やけに近かった。
考えようとして、やめる。
今は、それどころじゃない。
胸の奥が、ざわついている。
理由は、ひとつしかなかった。
視線が、勝手に奥へ向かう。
神殿の中央。
人の列。
低く続く祈りの声。
——棺が、ない。
さっきまで、
確かに、そこにあった場所。
花も、布も、蝋燭も、
何ひとつ残っていない。
白い石の床が、
何事もなかったみたいに続いている。
息が、詰まる。
——違う。
これは、
エリオスが死んだあとの神殿じゃない。
司祭の声が、静かに響いた。
「名を授かりし者は——」
名付けの儀式。
七つの歳を迎えた子どもが、
神の前で名を呼ばれ、
この国に“生きる者”として迎え入れられる日。
その列の中に、
自分がいる。
分かってしまった。
——戻ってる。
心臓が、どくん、と鳴る。
——まさか。
まさか、本当に。
——戻ってる。
震える指先が、
無意識に、自分の手を探す。
指輪が、あった。
小さな指には、少し大きい輪。
落ちるほどではないのに、
ぴったりではない。
その違和感だけが、
妙にはっきりと伝わってくる。
司祭の声に導かれるように、
列が、ゆっくりと動き出した。
一人、また一人と、
前へ進んでいく。
リリアナも、
その流れに遅れないよう、足を運ぶ。
胸の奥で、
はっきりしない感覚が、
形にならないまま、渦を巻く。
——じゃあ。
喉が、ひくりと鳴る。
……エリオスは?




