28/78
第6話 それぞれの場所で(1)
朝は、静かだった。
夜の気配が、
まだ少しだけ残っている時間。
窓の外は、
淡い光に満ち始めていて、
屋敷の中も、
ゆっくりと目を覚まし始めている。
誰かの足音。
遠くで開く扉の音。
小さな生活の気配が、
少しずつ戻ってくる。
リリアナは、
布団の中で目を開けたまま、
しばらく動かなかった。
夢は、見なかった。
ただ、
昨夜のことだけが、
静かに残っている。
童話。
挿絵。
絡めた手に輝く指輪。
光の中に立つ王と聖女。
そして、
その隅にいた、
自分と同じ色の存在。
胸の奥に、
触れれば崩れそうな何かが、
まだそのまま残っている。
涙は、出ない。
ただ、
前みたいには戻れない、
という感覚だけが、
はっきり残っていた。
ゆっくりと起き上がる。
床に足をつけると、
冷たさが伝わる。
現実の温度だった。
そして。
その静けさの中で、
リリアナは、
自分が近づかない方が、
光は消えないのだと、
気づいていながら、
ずっと見ないふりをしてきたことを、
もう、
否定できなくなっていた。




