第5話 私の場所ではなかった(4)
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挿絵が、ひとつだけあった。
王と聖女が、
手を取り合っている。
指を絡めるように、
強く結ばれた手。
二人で、
魔女を打ち倒した場面。
倒れた魔女は、
地面に伏したまま、
二人を見上げている。
その目には、
はっきりと、恨みが描かれていた。
長い髪。
薄い色の瞳。
――自分と、同じ色。
王と聖女の指には、
指輪があった。
絡めた手のまま、
同じ形のものが、
光を受けている。
王は、
聖女のほうへ体を傾けていて、
まるで庇うみたいに立っていた。
聖女もまた、
王の手を、
離さない。
それだけの絵。
それだけなのに。
胸の奥に、
何かが落ちた。
音もなく。
――ああ。
そうか。
分かった。
時戻り前。
エリオスが、
家に来た日。
会った。
名前を呼ばれて、
目を合わせて、
あの人が、光になった。
私は、
生きる理由を探していた。
だから、
あの人は、
自分を差し出してくれた。
「俺を、生きる理由にして」
あの言葉が、
胸の中に残っている。
エリオスの来訪から、
数週間。
王宮から迎えが来た。
私は、
婚約者候補として、
王宮の来客室に移された。
保護、という形で。
けれど。
そこは、
もともと、
サラの場所だった。
静かに、
息を吸う。
吐く。
胸は、
もう揺れない。
私は、
あの場所を、
奪った。
――ああ。
そうか。
分かった。
けれど。
今回は、
エリオスに会わなかった。
会えなかった。
それで、
きっとよかった。
胸の奥で、
ひとつ、
何かが、静かに収まる。
ここが、
私の本来の場所。
光の隣じゃない。
物語の中央でもない。
最初から、
そこには立たない側。
近づけば、
壊れる。
そういう側。
私が生まれたせいで、
生きようとしたせいで、
母が、いなくなったみたいに。
同じことが、
また起きるかもしれない。
怖い。
悲しい。
でも、
それより先に、
分かってしまった、という感覚だけが残る。
だから。
近づかない。
光のそばには、行かない。
それが、
私の場所。
――エリオスの隣は、
私の場所ではなかった。




