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第5話 私の場所ではなかった(3)

部屋に戻る。

灯りは、もう落とされていた。


窓の外は暗く、

家の中も、静まり返っている。


足音を立てないようにして、

扉を閉める。


息を、ひとつだけ吐いた。


叱られたことも、

廊下の声も、

胸の奥には残らない。


残っているのは、ただ、

分かってしまったという感覚だけだった。


机の上に、古い本がある。

角の擦れた、分厚い童話。

何度も読んだ、あの本。


手に取る。

重みが、指に馴染む。


ページを開く。


――王と聖女と、時の指輪


むかし、

この国が、まだ今ほど豊かではなかった頃のことです。


若い王と、

そのそばには、聖女と呼ばれる少女がいました。


名を授けられたその日から、

聖女は王の隣に立っていました。


聖女は、清らかな心と、

神に祝福された力を持ち、

王を深く想っていました。


王もまた、聖女を大切にし、

二人の想いは、ひそやかに通じ合っていたのです。


国の人々は、二人を見て、こう言いました。


――この国は、きっと幸せになる。


けれど。


聖女の隣にいたはずの場所に、

いつしか、別の女が立っていました。


魔女です。


魔女は、その場所を奪い、

王のそばに居続けようとしました。


けれど、

王の心だけは、どうしても手に入りませんでした。


王の心は、変わらず、聖女のものでした。


届かない想いは、やがて、歪みます。


「どうして、私ではないの」


執着は、怒りへ。

怒りは、呪いへ。


魔女は、王を呪い、

その命を奪いました。


国は嘆き、

人々は泣き、

聖女は、深く悲しみました。


けれど、聖女は立ち上がります。


聖女は、不思議な指輪を持っていました。


その指輪は、時を戻す力を持つ、

神の遺した遺物でした。


愛する人を救うために。

正しい想いのために。


時は巻き戻され、

王は、すべてが始まる前の刻へと戻されました。


まだ、名を授けられたばかりの、

幼い日の時間へ。


生き返った王と聖女は、力を合わせ、

魔女と対峙します。


そして、ついに、魔女は打ち倒されました。


魔女の呪いは消え、

国には、再び光が戻ったのです。


やがて王は国を治め、

聖女はその隣に立ち続けました。


国は栄え、

人々は豊かになり、

この国は、長く平和を保ちました。


人々は、今も語ります。


――王を救ったのは、聖女の愛だった。

――国を治めたのは、二人の正しい心だった。


そして、こう付け加えるのです。


――王のそばに立つのは、選ばれた者だけ。

――その場所を奪おうとする者は、必ず国を滅ぼす、と。

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