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第4話 会わなかった日(4)

叔父の来訪から数日後


その日は朝から、

屋敷の空気が、

張りつめていた。


落ち着きが、

どこにもなかった。


叔父が来たときの、

内側だけが張りつめる緊張とも違う。


もっと表面だけが整えられていくような、

息の詰まる忙しさ。


廊下を行き交う足音が途切れない。

指示が短く飛び交う。

扉が開いては閉じ、

また開く。


屋敷が、

誰かを迎える形へと、

無理やり整えられていく。


やがて、

控えめなノック。


「お嬢様。

 本日は王子殿下が、

 名授けのあとのご挨拶でお越しになります。

 お支度を」


メイドの声だった。


その言葉を聞いた瞬間、

胸の奥が、

わずかに軋んだ。


――やっぱり、同じだ。


この空気。

この慌ただしさ。

支度の手つき。

使用人の声の低さ。


すべてが、

巻き戻る前の、

あの日と同じ形をしていた。


間違いない。


同じ道を、

また辿ろうとしている。


湯が運ばれ、

髪を整えられ、

普段は触れない箱が開かれる。


広げられた服は、

少しだけ大きくて、

少しだけ似合わなかった。


急いで選ばれたのだと、

すぐに分かる。


名授けのあと、

王家の者が有力な家を訪れる。


祝福と、

記録のための挨拶。


ただ、それだけのこと。


それなのに。


胸の奥が、

落ち着かない。


会いたいのか、

怖いのか、

自分でも分からないまま。


考えるより先に、

体が動いていた。


気づいたときには、

立ち上がっていた。


足が、

勝手に廊下へ向かう。


客間の隣。


人の気配のない、

細い通路。


その先にある、

使われていない物置の前で、

足が止まった。


——ここに。


なぜか、

そう思った。


会いたい。


でも、

近づいてはいけない。


その二つが、

同時に胸にあるまま。


リリアナは、

扉をそっと押し開けた。


中は、

ほとんど使われていない空間だった。


棚と、

古い箱と、

使われなくなった布。


窓はなく、

外の光も届かない。


扉を閉めると、

屋敷の音が、

少しだけ遠くなる。


足音。

声。

扉の開閉。


すべてが、

壁の向こう側で、

薄く重なっている。


リリアナは、

扉に背を預けたまま、

動かなかった。


ここなら、

近づかなくて済むと思った。

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