第1話 光が消えた日(1)
エリオスの呼吸は、もう浅かった。
胸の上下は、目を凝らさなければ分からないほどで、
それでもまだ、生きていると分かる程度には残っている。
リリーは、彼のそばにいた。
膝をつき、逃げ場を塞ぐように、静かに。
リリーの指先は、彼の手から離れなかった。
その温度が、まだそこにあることを、確かめるように。
それでも――
この時間が、もう長くないことだけは、
はっきりと分かってしまった。
エリオスの視線が、ゆっくりと動いた。
焦点を探すように揺れて、
やがて、リリーのところで止まる。
まゆげが、ほんの少しだけ下がる。
困ったような、心配するような、
いつもの癖。
何も言わない。
それでも、その目は、
「大丈夫か」と問いかけているようだった。
リリーは、答えなかった。
笑いもしない。
泣きもしない。
ただ、彼の手を取る。
冷えかけた指を、包むように。
一瞬だけ、
エリオスの指先が、わずかに動いた。
握り返そうとして――
でも、力は足りなくて、
それきりだった。
それでも、その微かな動きは、
確かに、そこにあった。
視線が、ゆっくりと緩む。
安心したように、
もう一度だけ、リリーを見る。
言葉は、最後まで落ちてこなかった。
呼吸が、ひとつ。
そして、もうひとつ。
次の瞬間、
その胸は、二度と上下しなかった。
遠くで、鐘の音が鳴った。
一度。
少し間を置いて、もう一度。
その音は、
この国の“次の王”の命が尽きたことを告げる鐘だった。
考えるより先に、
その音が、胸の奥に重く落ちた。




