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第4話 会わなかった日(2)

王都の空気は、

いつも静かだった。


人が少ないわけではない。

むしろ、

行き交う馬車も、

出入りする貴族も多い。


それでも、

どこかで、

音が抑えられている。


言葉の選び方も、

視線の向け方も、

距離の取り方も。


最初から、

そういうものとして、

身についているみたいに。


——アストレア王国。


王宮を中心に、

貴族の屋敷が広がり、

その外側に、

街と領地が続く。


王と貴族の距離は、

近い。


けれど、

近すぎない。


王宮は、

見守る場所であり、

同時に、

見定める場所でもある。


その視線から外れることは、

ほとんどない。


名授けの制度も、

そのひとつだった。


子どもは、

生まれたときから名で呼ばれる。


けれど、

神殿で正式に名を授けられて、

はじめて、

王宮の記録に載る。


家の中だけの呼び名ではなく、

この国の中で、

“誰であるか”を認められる。


その日から、

祝福の対象となり、

同時に、

見守られる側にもなる。


名授けのあと、

王家の者が各家を訪れるのも、

昔からの慣例だった。


すべての家ではない。


王宮と縁の深い家、

将来、

婚姻や政に関わる可能性のある家。


そうした屋敷にだけ、

静かに足が運ばれる。


表向きは、

祝福の挨拶。


けれど、

その子が確かにそこにいること、

そして、

どんな空気の中で育っているのかを、

自分の目で確かめるための訪問でもあった。


王家と貴族が、

互いの距離を測り続けるための、

静かなやり取り。


近くて、

遠い。


守られていて、

同時に、

見られている。


そういう関係の上に、

この国は成り立っている。


そして。


この国には、

好まれない色があった。


灰色。


光を吸い、

輪郭を曖昧にする色。


昔から、

祝福の席には置かれにくいと、

言われている。


誰も、

はっきりとは口にしない。


けれど。


視線が一瞬だけ逸れる。

言葉が、わずかに止まる。


それだけで、

十分だった。


リリアナは、

鏡を見なくても、

自分の色を知っている。


灯りの下で、

沈んで見える髪。


感情を映さない、

灰色の瞳。


名授けを受けても、

それは変わらない。


王宮と貴族の距離。

制度としての祝福。

色に向けられる沈黙。


そのすべてが、

朝の空気の中に、

当たり前のものとして混ざっている。


リリアナは、

それを、

ただ知っていた。


説明されなくても、

教えられなくても。


ここに生きているだけで、

分かってしまうことだった。

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