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第3話 百合の咲く場所(3)
お茶会が終わると、
誰かが「それでは」と言い、
椅子が引かれ、
話題はほどけるように散っていった。
「先に帰っていなさい」
振り返らずに、
そう言われた。
父の声だったか、
それとも継母だったか、
リリアナには分からない。
うなずく必要もなかった。
言葉は、もう終わっている。
馬車は静かに走り出す。
街を抜け、
屋敷の影が遠ざかっていく。
揺れに身を預けながら、
リリアナは、
窓の外を見ていた。
——あんまり良くない色。
さっきの声が、
思い出そうとしなくても、
そのまま浮かぶ。
誰も怒らなかった。
誰も違うと言わなかった。
それだけのことが、
胸の奥で、
少しずつ重さを持ちはじめる。
馬車が、
リリアナの屋敷へ続く、
ゆるやかな坂に差しかかったとき。
「……ここで」
声が出たのは、
自分でも意外だった。
御者が振り返る。
困惑の色が浮かぶ。
「少し、歩きたいの」
理由を聞かれる前に、
扉が開いた。
草の匂いが、
風と一緒に流れ込んでくる。
リリアナは、
ひとりで地面に降り立った。
馬車が再び走り出すと、
その音は、
すぐに遠ざかっていった。
残ったのは、
風と、
広がる野原だった。




