第3話 百合の咲く場所(2)
「今日は、お茶会がある」
そう告げられたのは、
朝食のあとだった。
父でも、継母でもない。
いつものように、
使用人の口からだった。
理由の説明も、
準備の相談もない。
予定として、ただ伝えられる。
——行くことは、
最初から決まっている。
親戚同士が顔を合わせる、
小さな集まりだった。
格式ばった席ではない。
それでも、
言葉も視線も、どこか慎重だった。
リリアナは、
用意された椅子に座り、
湯気の立つ紅茶を前にしていた。
話題は、
自然と王宮の方へ流れていく。
「第一王子殿下、
最近はずいぶん健やかだそうですね」
「ええ。
狩りにもよく出られているとか」
「もうすぐ十歳のお誕生日でしょう?
本当にご立派だわ」
その声は、
明るく、軽かった。
未来の話をする声だった。
「次はもう、
縁談の話も現実的になる頃でしょう」
「サラ様のお名前も、
同い年ということもあって、
よく耳にするようになりましたね」
王家の血を引く、
いとこ。
王の妹の娘。
その名前が、
当然のように並べられるのを聞いて、
リリアナは、何も言わなかった。
そういう未来が、
もともと用意されていたのだと、
あらためて知っただけだった。
それでも。
エリオスが健やかに過ごしていると、
そう聞けたことは、
確かに胸に残った。
嬉しかった。
そのことだけは、
はっきり分かった。
だから、
何も言わなかった。
そのとき。
向かいの席から、
小さな声が上がった。
「ねえ」
呼ばれたわけでもないのに、
リリアナは、そちらを見る。
少し年下の子どもだった。
椅子に深く腰かけ、
足が床に届いていない。
丸い頬。
何も疑わない目。
「その髪の色、どうして?」
問いは、
悪意も、遠慮もなく、
ただ聞いたことを確かめるように
投げられた。
「……灰色?」
首を傾げる。
「ねえ、
それって、
あんまり良くない色なんでしょ」
どこかで聞いた言葉を、
そのままなぞるみたいに。
周囲の大人たちが、
一瞬だけ、言葉を止めた。
誰も叱らない。
誰も説明しない。
子どもは、
答えを待つように、
リリアナを見ている。
リリアナは、
すぐには口を開かなかった。
どう答えればいいのか、
分からなかったからではない。
——どう答えても、
ここでは変わらないと、
知っていた。
「……さあ」
そう言って、
視線を紅茶に落とした。
それ以上、
何も言わなかった。
子どもは、
「ふうん」とだけ言って、
興味を失ったように視線を外す。
話題は、
何事もなかったように、
別のところへ流れていった。




