第2話 白い装束の神殿 side エリオス
同じ夜。
王宮の一室は、静まり返っていた。
昼の出来事が、
まだ、頭の奥に残っている。
今日は、名授けの儀式だった。
王族席から、
七つの歳を迎えた子どもたちが、
順に祭壇へ進んでいくのを見下ろしていた。
隣には、
同じく白い装束をまとったノアがいた。
弟もまた、
今日、名を授かったひとりだった。
列を眺めるのは、
本来、慣れているはずの光景だった。
その中で、
遠く、
視線が引っかかった。
理由は、分からない。
列が進み、
距離が、少しずつ縮む。
顔が上がる。
――見られている、と分かった。
一瞬ではない。
けれど、
言葉を交わすほどでもない。
幼いはずの顔。
それでも、
確かに、こちらを見ていた。
理由は分からない。
ただ、
その瞳を正面から受け止めた瞬間、
胸の奥が、
一瞬だけ、強く触れられた気がした。
その、短い間。
「……お知り合い?」
隣で、サラがそう言った。
エリオスは、首を振る。
「いや」
その短いやり取りのあと、
少女の視線が、
二人の並びへと、わずかに移る。
そして。
さっきまで向けられていた光が、
すっと、引いていくのが分かった。
少女は、
列の流れに従って、
そのまま視界の外へ消えていく。
名を呼ばれる前の、
ただの通過点。
それでも、
何かが、
置き去りにされたままだった。
その夜。
弟はすでに眠り、
部屋には、灯りの揺れる音だけが残っていた。
理由のない引っかかりが、
名を持たないまま、
静かに、胸の奥に沈んでいる。
考えようとすると、
言葉になる前に、ほどけてしまう。
エリオスは、
寝台に横になった。
――大したことじゃない。
そう思おうとして、
目を閉じる。
それでも、
瞼の裏には、
あの視線の残り香が、
ふっと浮かんだ。
その夜は、なぜだか、
すぐには眠れなかった。




