セロの追憶 ⑶
せっかくなんでこれも投稿しちゃいましょう★というその場のノリとテンションの産物です。
ぐるぐると廻る景色。目を覆って、もう見なくないと蹲ってしまえたらどれだけ楽だろう、と思う。
けれどそれは叶わない。目を逸らしてしまうことなんて出来やしない。
どれだけ目を覆っても思い出してしまえばそれは確かにあったこととしてセロの中に溜まっていくのだから。
だんだんと記憶が薄れて、無かったものとして、忘れてしまいたかったのに。
それなのに思い出してしまった。
それでも一番忘れたくなかったことは、どうしても思い出せない。
不意に、視界が開けた。
セロの周りをぐるぐると回っていた忘れていた筈の景色はまるでなかったことのように見えなくなった。
開けた視界の一番奥。ただ白いだけの景色の中にポツリと、誰かがいた。
セロはそれに向かって歩いて行った。其処に、セロがここにいる理由がある気がして。
「こんにちは。今日は素敵な日ですね、貴方に逢えるなんて」
セロがその、誰かの前に辿り着くとその誰かはさも、嬉しげに美しく微笑んだ。
セロは思わず驚いたような顔をしてしまう。
美しく微笑んだその人は、あまりにも似ていた。
ぺたり、と座り込んだその足元にとぐろを巻く艶やかな長い白銀の髪。
血の如く赤い左目。
澄み切った青の右目。
にこやかに笑う顔。
まるでセロとコクリコにそっくりだった。
「……だれ、おまえ」
セロは思わず一歩下がって問いかけた。
あまりにも似すぎていて、気味が悪かった。
「人になを尋ねる時は自分から名乗るように言われていないのですか?」
その人は少し、悲しげに眉をひそめた。
「いわれてないよ、そんなとこ、だれにも」
セロは答えた。
寧ろ人に名前を尋ねる時に自分から名乗るという考え自体があまり理解できなかった。
セロの前でその人は少し微笑んだ。
「じゃあ、覚えましょう?今回は私が先に名乗りますね。だからあなたの名前も教えてくださいね。私の名前はシエロです。さぁ。あなたの名前は?」
シエロと名乗ったその人は少し首を傾げる。
「……セロ。だよ」
セロは小さく答えた。
シエロはちょっと困ったように笑う。
「それ、はあなたの名前ですか?」
「そうだよ」
「可笑しいことを言いますね。それは貴方の名前じゃ、ないでしょう?」
「何が言いたいの?」
シエロは少し、セロに手を伸ばした。
「だって。貴方は対になるものでしょう?」
セロは思わず伸ばされた手を避けるように後ろに下がった。目の前にいる自分と同じ顔をした何かが酷く得たいのしれないものに見えてくる。
「ねぇ思い出してください、花の名を冠する双子の妹姫様。どうして貴方は死にたいのですか?どうして貴方は旅をするのですか?」
避けられた手を悲しげに見下ろして、シエロは声を張り上げた。
「どうして貴方はここにいるのですか?」
歌うように
「どうして貴方は名を隠し。偽りの名を名乗るのですか?」
高らかに。
「……」
セロには答えられなかった。
理由なんて幾つもある。
死にたかったのは辛かったから。
旅の目的はヴェルを探すもの。
ここにいるのはコクリコに殺されかけたから。
名を偽るのは最後のよすがだから。
けれど、何故だかそれを口に出すことは憚られた。自信を持って叫ぶことが、できなかったのだ。
「ねぇ、思い出してください。もう一度。忘れて、忘れて。それでも忘れたくないと願った貴方の願いを。貴方の焦がれた、その人の顔を」
シエロは静かに何かを掴むように手を伸ばした。
「ねぇ、ちゃんと覚えていますか?忘れては、いませんか?」
「あなたは、なんなの?」
やっとの思いでセロは言葉を絞り出した。
それにシエロは笑う。
「私はシエロです。空っぽなひとりぼっち。独りが嫌で魔女と契約を交わした、空の器。……ねぇ、貴方の名前を教えて下さい」
「わたしの、なまえは」
これにて追憶はお終いです。
ちょっとずつお終いに近づいてます。




