コクリコの話⑵
間結構空きました。難産でした。でも長さがちょうどいい位?に戻ったはずです。
あの子の名前、知らないの?と、コクリコは尋ねた。
笑うでもなく、貶すでもなく、ただひたすらに、無表情のまま。
「嬢さんの名前?セロ、じゃないの?」
ヴィオラは当たり前のように首を傾げた。
コクリコは悲しそうに笑った。
「そっかぁ、そうだよねぇ。所詮、お前程度じゃ知ってるはずもないよね」
ヴィオラは嫌そうに顔をしかめた。
コクリコは笑う。
「お前は、人だもんね。仕方ないよね」
「だって、人は信用ならないもの。すぐに移ろう弱いもの。平気な顔して裏切って、どんな酷いことだってできるでしょ?」
コクリコは思い出すように、懐かしむように言葉を吐いた。
丁寧に丁寧に。木目をなぞるように
「家畜を殺して喰らう癖に自分のお気に入りの家畜は殺せないし食べれないんでしょ?正直、違いがわからないわ。なんて矛盾」
懐かしむように、笑っているのにけれど泣きそうな顔。
それはセロが時折見せる顔によく似ていて、ヴィオラは倒れたままのセロに目を向けた。
目を閉じたままのセロは眠っているだけに見える。
「ま、どうでもいいけどね。私には関係ないし。関係あるのは、リトよ」
肩を竦めてコクリコは溜息を吐いた。
「あの子は簡単に傷付いて、簡単に泣くから」
少し俯いて自嘲気味に笑う。
「きっと前の街の時も、泣いたでしょ?人を気に入って、それが傷付けば可哀想だと思い、それを失くせば寂しいって傷付くの。人にはいつだって置いかれるって、必ず別れるって知っていながら関わろうとするの。……お前も、きっとそうでしょ?お前も最後はリトを置いていくんでしょう?」
笑ったまま、首を傾げて。
じぃっと、コクリコはヴィオラを見た。
「だから、きっとあの子はお前に名前を教えてないね。別れる時に、その方が寂しくない、だなんてきっと思ってるんでしょうね」
正直、コクリコにその考えは理解できない。
人は信用ならないし、必ず置いていく。
それでも関わろうとするなんて、馬鹿らしくてならない。
どれだけ傷付けばわかるのか、と少し呆れもする。
けれど。
コクリコはそれでも人と関わるのを止めようとしない妹に少し憧れもした。
ことを忘れることのできる妹に嫉妬した。
いつか失くしてしまうもののために心を砕くことは馬鹿らしいと思ったまま、それでも妹と関わろうとするのはただ好きだから、大切だからと言った理由だけではないのだ。
不意に、
「俺は、嬢さんを置いていかない。絶対に」
ヴィオラは言った。
コクリコは思わず目を見開いてヴィオラをみる。
「俺らの旅の目的は、嬢さんの人探しっていうのもあるけど、一番は嬢さんが死ぬためだから」
少し、ヴィオラは目を伏せてそう言う。
「俺らの旅のお終いは嬢さんが死ぬところ。俺は嬢さんが死ぬまでついて行く。そう約束したから」
そっと息を吐いて。
「俺が、嬢さんの最後を見届けるんだ」
それだけ言い終えると、ヴィオラは黙った。
コクリコは何も言わずにヴィオラの話を聞いて、そしてヴィオラを見た。
「貴方はリトを置いていかないの?人なのに?」
「置いていかないよ。そう約束したから」
「約束だけで人は寿命を伸ばすことはできないわ」
「平気だよ。俺は人だけど人じゃないものよりの人だから」
ヴィオラはニヤリと笑った。
コクリコは不意を疲れたように無表情に戻り、そして納得したように手を打った。
「そりゃそうだよね。普通の人が傘になれるわけないわ」
「俺はそういう家系に生まれたからね。物に化けたり、ほんの少し魔法が使えるんだ」
コクリコは、少し何かを考えるようにして俯いて、そして顔を上げる。
「お前はリトを置いていかないのね?」
確かめるように。
何か言おうとしたヴィオラをコクリコは遮った。
「なら、いいでしょう。ここからずっと行った遠いところ。普通に行ってちゃ絶対につけない森があるのを知ってるでしょ?あそこ」
いいでしょう、と、言っておきながらそれでも躊躇うように視線を一瞬逸らして、コクリコは迷いを断ち切るように目を閉じた。
「あそこに、アヴェルラが最後に立ち寄った場所があるの。……きっと、其処にリトの探してる答えの一つがあるわ」
ヴィオラは少しだけ驚いたように目を見開いた。そして、なぜそんなことを教えてくれるのか、というようにコクリコを見る。
コクリコは少し笑って肩を竦めた。
「もともと、これを伝えるためにこんな茶番劇を演じたのよ、セロまで殺そうとしてね」
咎めるようにヴィオラはコクリコを睨んだ。
「それと、あの子の名前はマルグリット。真名に当たるものじゃないけれど確かにあの子の名前で間違いないわ」
コクリコは言った。
「ねぇお前。一つ、聞いてもいい?」
セロの名前を呟いていたヴィオラはその言葉で、コクリコに目を向けた。
「お前はどうしてリトと旅をするのに傘の姿を選んだの?他にも選択肢はあったはずでしょ?でもそれを全部投げ打ってまで、どうして何もできないようなものを選んだの?」
化ける対象を選べるのは人生において一度きり。それを知ってか知らずかコクリコは問いかける。
その問いにヴィオラは本人も気付かないうちにそっと笑みを刷いて答えた。
「傘なら、いつでも其処にいて、何でもないようなものから守ることができるから」




