コクリコの話⑴
倒れたセロちゃん。
その時のコクリコちゃんのお話。
また。また、目の前で取りこぼした。
手を伸ばすことは叶わなくて。
「手を伸ばすことさえできないなんてね。ちょっと期待はずれ。っていうか正直貴方じゃ私のリトには釣り合わない」
コクリコは血の滴る赤い長い爪に付いた血を振り払うと倒れたセロをよけて、その脇に転がる紫の傘を踏みつけた。
「何とか言ったらどうなの?ねぇ」
蔑むような、目。
黄色く染まっていた左の目はゆっくりと右と同じ青に戻って行く。
「だんまり?信じられない。目の前でリトを一回殺しておいて」
『いくつか、聞きたいことがある』
コクリコは足をどかした。
「どうして、セロのこと殺そうとした?」
傘と同じ紫色の髪をした、一人の青年。
傘があった筈の場所には彼がいた。
青い目と金の目をした彼はコクリコを睨むようにして、そう言った。
コクリコはそんなの意に介さず少し、口元を歪めた。
「何だ、ちゃんと喋れるんだ。……お前が、ヴィオラ?」
「そうだよ」
ヴィオラはセロと同じ、けれど確かに違う顔を睨んだまま言った。
「怖い顔だね。私のこと殺したいの?」
馬鹿にしたようにコクリコは笑い続ける。
けれどその目は笑っていなかった。
「殺したいね、叶うことなら今すぐにでも。セロのこと殺そうとした君なんて」
「あぁ。それでも私に危害を加えないのは私がリトと同じ顔だから?」
ヴィオラは黙って、コクリコは肩をすくめて笑った。
そして、不意に真顔に戻って言う。
「馬鹿にしないでよね。それと、リトのこと、セロなんて呼ばないで。それはあの子の名前じゃない」
睨むような無表情。
目だけがギラギラと光っている。
暫くの間睨み合っていて、先にそれに負けたのはコクリコ。
「あぁもう。こっちには時間がないの。リトが起きる前に話しておかなきゃならないことがあるっていうのに」
ガシガシと頭を掻く。
そして、ヴィオラを見た。
「私が今から言うことをよく覚えいて。私はお前なんかに大切な妹を託すなんて正気とは思えないけどね」
「大切な妹を殺そうとしたのは何処の誰だか」
「五月蝿いよ。……全く、百舌はどうしてこんなのにリトのこと任せたんだか……」
コクリコは溜息を吐いた。
それをヴィオラはじっと見ていた。
「ティノもティノだし、サツキはサツキで勝手だし」
いつまでも続きそうな愚痴に嫌気が差したのか傍目でわかるほど顔を嫌そうに歪めたヴィオラは言う。
「愚痴ならよそで言ってくれる?」
そう言われてコクリコは、そういえば、と
「……あぁ。そうそう。私がリトを殺そうとしたのは、必要だから。そしてあの子はこれじゃ死なないから。何よりそれをあの子が望んだから」
ヴィオラとは目を合わせないままにコクリコは言い切った。
「……ねぇ」
コクリコはじとりとヴィオラを見た。目を、確かに合わせて問いかける。
「貴方、ちゃんとリトの名前、わかっているの?」
暫く続きます




