セロの追憶⑴
ここから、ちょっとセロちゃんの昔のお話です。
ぞふ。と、軽い音がして胸から五本、まるで血のように真っ赤な爪が生えてきたことは確かに覚えているけれど。そこから先の記憶がさっぱりない。
此れで、やっと死ねるかな?とか思ったけれど。きっと死ねないなと思って。
頭の何処かで、死にたくないな、なんて思って。
なんて自分勝手なのでしょう。と、自嘲気味に顔を歪める。
あれ程死にたいと願っておいて今更死にたくない、だなんて。
一番の願いは、死ぬこと。けれど、もう無闇矢鱈に死にたいとは思えなくて。それが何故か無性に悲しい。
死にたくて、意識を躊躇わず手放そうとして、それすらもできなくなってしまったよう。
でもこれは、とても失礼なことだとも思えてしまう。
あれ程死にたいと願ったから殺そうとしてくれているコクリコに対して。そして死ぬまで一緒に生きてくれると約束した×××××に対しても。
死ぬまで一緒という約束は探し物を見つけて、其処で命を断つ、という前提の元で成り立っているのに。
死にたくない、だなんてそんなこと。許されるはずもない。きっと×××××にはまだ沢山時間があるはずなのに。それを全て縛ることになってしまう。
浅ましい考えに目を覆いたくなる気持ちを抑え込んで周りを見渡した。
見渡す限りの白い空間。
終わりの見えない上も下も何もない気が狂いそうな白。
音も何もない。
何もない其処に、一人でいる。
目の前に手を翳せば其処には見慣れた白い手。
手を伸ばせば何に触れることもなく空を掴む。
静かに、時計の針が時を刻む音が聞こえた気がした。
規則正しい音。
何処からともなく几帳面に。
次第にその音は近づくかのように大きくなっていき、そして
まだまだ続きます




