忘れ物。
短いです。
コクリコちゃん再び!
幾つかの道を辿って、幾つかの夜と昼を通り過ぎて。
けれどもまだ薄れることのない、街での記憶。
きっといつかは忘れてしまうから。だから、覚えているうちだけは、せめて大切に大切にしておこうと思う。
「ねぇ、あのね」
セロは小さく呟いた。
「わたしは、ね、あのこのこと、きっとわすれちゃうね」
『そうですね』
ヴィオラは当たり前のように、けれど少し優しく答えた。
「きっと、わたしはみんなわすれていくよ」
少しだけ、寂しそうに。
『知っていますよ、嬢さん』
『けど、嬢さん。嬢さんは俺のことは忘れないでしょ。最後まで』
ヴィオラのその言葉に、セロは少し、目を見開いた。
そして、目を少し伏せてみる。
「そうだね。きっと、おまえのことはわすれないね」
ちっとも、嬉しそうではない。
そして、セロは可笑しいな、とまた思う。最近は可笑しいと思うことが多すぎて困ってしまう。
前は、こんな風に可笑しいと思うこともなかったし何より泣くことなんて、殆どした記憶がない。
その可笑しさは決して嫌いなものではない。可笑しいのがたまらなく素敵なものに思えてしまう事まである。
それがまた可笑しくて。
けれど、こんな風に素敵なことを覚えて、泣くことを思い出して。そして笑って。
その先に待っているものなんて冷たくて触れたくないような現実だけ。
「ねぇ、ヴィオラ。おまえは、さ。わたしのこと、わすれないでいてくれる?」
『勿論ですよ、嬢さん』
問いかけた声。それに応えた声。
問いかけた声はまるで縋るような声で。
応えた声は、何処か嬉しそうで、そして同時にとても悲しそうだった。
ふと、踏み込んだ一歩目。
セロは可笑しな気持ち悪さに襲われて、そして世界の色が反転した。
『嬢さんッ‼︎』
ヴィオラの珍しく必死な声がして。
ずぶり
濡れた音がして。
セロが視線をちょっと下に下げれば。
其処にあったのは真っ赤な爪が五本。
お行儀良く並んだ爪は人のものとは思えないような長さ。
「おねぇ……ちゃん……?」
セロはぎこちない動きで後ろに目を向ける。
後ろには哀しそうに、けれど確かに笑っているコクリコ。
「ごめんね、リト。あとは、リコが何とかしてあげるから。だから安心して、しんで ね?」
にこり、とコクリコは笑った。
セロと同じ顔で。違う目の色をして。
空色だったはずの左目を金色に染めて。
そして、ズッ、と音を立てて爪が引き抜かれる。
『セロ‼︎』
最後に、そんな声が聞こえた気がした。
ここからちょっと急展開?です。




