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第一話 劣等生

 あの日から俺は必死になっていた。

 魔力・体術の練習。

 魔導書を読み漁り、縁遠く情報の乏しかった治安庁や聖衛についても調べ上げた。


 何日も、何ヶ月も、何年も。

 ボタンの破れた服を眺めながら、やれることをひたすらにやり続ける日々が続く。

 そしてそれが実ってくれたのか十年経った今、俺は王都の名門校である四聖学園に入ることができた。


 しかし、そんな名門に入っても、俺じゃなんの意味もなかった。


「…また実技は補習だなレオ君」


 テスト結果の返却日。

 俺は先生にそう囁かれた。

 この学園じゃ、実技の補習なんて滅多にないのに。


(なあなあ、あいつまた実技落ちたんじゃね?笑)

(なんでここ入れたんだよ)

(なんか筆記テスト満点でゴリ押したらしいよー笑)


 席に戻ろう。

 そうやって足を進めて誰かとすれ違うたび、そんな笑い声が耳に入ってくる。

 もう聴き慣れて来た。


「また実技落ちたのかよ!笑」

「……うん」


 いざ席に戻ってもこれだ。

 すぐ後ろの席に座っているアレクが、俺の背中に嘲笑を吐き捨てる。

 でも俺は、何も言い返せない。

 いや、言い返す資格がなかった。


「この分だと魔導闘争競技(レガリア)の校内選抜すら通らないなー。 あ、悪い。 お前じゃそもそも出れないか!笑」


 その言葉に乗っかるように、周囲からも次々と笑い声が上がる。

 その理由は、彼も言っていたレガリアが一番の原因だ。


 レガリアは文字通り魔導、魔力やスキル。もしくは体術などの対人技術で競い合う競技。

 持っているスキルや大会成績でE級からA級の階級で実力を格付けされ、当たり前だが階級が高いほど強いとされている。


 そしてこの学園が名門と言われる所以は、そのレガリアに置いて数多くの実力者を排出していることにある。

 つまり筆記や知識がどれだけ優れていようと、雑魚スキルしかない俺は評価されないんだ。

 実際初めての階級だってスキルの判定でE級。

 現在も学園の判断で上げてもらえるD級を筆記でもぎ取り、止まってる。


 影では劣等生呼びされ、都市大会などに向かうための校内選抜すら出してもらえない状況だ。

 けど、それでも、俺はこの学園から去るわけには行かない。


「……出るよ。 絶対出てみせる」


 俺は真っ直ぐアレクの目を見る。

 が、それを聞いた彼らはまた、腹を抱えて笑い出した。


「ぷっははは! マジかよお前! まさかとは思うけどさ、入学ん時の“聖衛になる”ってやつ? まだ頑張ってんの?笑」


 当たり前だ。

 そう言っても笑われるだけだと分かっていた。

 だが、本当に諦めてなんかいない。


 治安庁に入るにはB級以上になること、尚且つスカウトされることが絶対条件だ。

 ミクのいるところへ行くために、この学園以上の足掛かりはないだろう。

 そんな意地にも似た夢を支えに、俺は尚も真っ直ぐ彼の目を見つめていた。

 しかし、


「はぁ…。 お前さ、あんまし調子乗んなよ?」


 そんな態度が気に入らなかったのか。

 アレクの雰囲気が変わる。


「…調子に乗ってなんか———」

「乗ってんだよこっちからしたら」


 さっきまでと違う、低く吐き捨てるような声。

 俺は思わず息を呑み、言葉は喉の奥へと引っ込んで行った。


「レガリアは“実力”だ。 スキルも雑魚、魔力の総量も技量も体術もぱっとしない癖に“B級”の俺の前でそんな口叩いてんじゃねぇよ」


 ひりつくほど鋭い彼のオーラが俺の肌を刺す。

 アレクは自分でも言っていたがこの学年唯一のB級競技者(プレイヤー)。

 そんな奴にここまで言われてしまってはもう何も言えない。


「アレク君、レオ君。 少々おしゃべりが過ぎるぞ」


 聞こえて来たのは先生の声。

 歳のせいかもともと老けた顔だが、その眉間にはいつも以上にシワがよっていた。


「はーいすんませーん」

「すみません…」


 お叱りを受けた俺たち。

 だが結局、授業中もアレクのいじめは止まらなかった。



ーーー ーーー ーーー 



 放課後の教室。

 みんなが実技場で自主練をしている中、俺は一人残って魔導書を開いていた。


「はぁ。 なんか嫌んなっちゃうな」


 そんなことを呟きつつも手は止めない。

 彼女との、ミクとの約束を果たすため、諦めるわけにはいかないのだから。


「にしてもどーしよ。 再来週には選抜大会あるのに…」


 一応選抜大会のエントリーはした。

 出れるかどうかは前日の実技で決まるから何とも言えない…、というか絶望的だが。


「とりあえずやれるだけのことはしないとな」


 そう思いハネペンを持つ手の速度が上がる。

 スキルの系統、そしてその原理や発動条件。

 とことんまで突き詰めて突ける穴と手段を持っておくのが、俺のやり方だからだ。


 そうして数時間が過ぎていった。

 いつもなら帰る時間になってもなぜだか今日は集中が途切れない。

 やがて日も落ち、外の生徒の声が聞こえなくなっても、俺はそれに気づきすらしなかった。

 そんな中、


———ガチャ。


 鍵をしていたはずの扉が開く。


「あれ、灯り消し忘れじゃなかったんだ」


 この高くて柔らかい声、聞き覚えがある。

 顔は見えなかったがなんとなく誰か想像がついた。


「あれ、レオ君じゃないか!」


 声のする方に目を向けると思い浮かんだ通りの人が立っていた。


「お久しぶりです。 ネイル先輩」

<設定紹介>

◯レガリアの階級

 初階級は持っているスキルや魔力総量で決められ、以降の昇格降格は大会結果と映像記録用の魔水晶を基に治安庁が定めて通知する。

 強さの目安としては…


E級:スキルなしの一般人レベル。 魔力を放出することはできるがせいぜい生身のパンチと同程度。


D級:スキルがあってもなくても行けるレベル。 魔力の形や出力を操ることができ、拳ぐらいの石なら破壊できる。


C級:魔力、体術ともに優れているレベル。 魔力による身体強化のみでD級数人と容易に戦うことができる。


B級:スキルや魔力総量だけでは辿り着けないレベル。 卓越した技量を持ち、プレイヤーとして一人前とされる。

火力で例えるなら家一軒を粉砕する程。


A級:何かしらの才能を持っていないと不可能なレベル。

各国に数十人しかおらず、都市の防衛や聖衛の候補となりうる。 街一つを容易に堕とせる。


S級:最高峰。 各国に二名までという上限があり、聖域や国家全土の防衛を任される。

人智を越えるほどの“何か”を持つ者しか登れない領域。

万全の全力であれば数時間で大陸ごと消せるレベル。

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