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第二話 優等生

 アレクとの一件が過ぎたその日の放課後。

 久しぶりに会ったネイル先輩は、いつもと変わらないテンションの高さで俺に声をかけてくれた。


「また魔導書で勉強かい?」

「はい…まあ…」


 笑顔で近づいてくる先輩。

 俺の真隣の椅子を引き、腰をかける。


「まだ2年生なのに偉いじゃないか。 勉強嫌いな私も君を見習って頑張らないとな」


 アレクとかと違って先輩はこんな俺にも優しく接してくれる。

 初めは同情か何かだと思ってたが、そういうわけでもないらしかった。


 けど正直、俺はこの人とあまり話したくない。


「先輩は実技も筆記も点数高いじゃないですか」

「その場で覚えるのは得意なんだけど、定着っていう意味ならまだまだだよ」


 また謙遜。

 性格の良さから来てるのは分かるが、聞いてるこっちとしてはあんまり気分のいいもんじゃない。

 実技は常に校内トップ。

 筆記だって、余程のことがない限り学年一桁を落とさない。

 その上容姿端麗で男女問わずの人気者。

 俺とは正反対の優等生だ。


 そんな先輩と劣等生の俺が話していたら、好ましく思わない奴も少なくない。

 実際一年の時は親衛隊みたいなのにボコられた。


「なぁなぁ。 ちょっと問題出してみてもいいかい?」

「えー。 …まあいいですけど」


 俺は先輩の方を見ず答える。


「じゃあ問題。 私のスキルはなんでしょーか」

「有名すぎて問題になりませんよ」

「いいからいいから。 それとも答えられないのかい?」


 思わずムスッと先輩を睨む。

 なぜだか彼女の方は楽しそうだった。


「…《緋硝子(ひがらす)》。 超硬質かつ鋭利な緋色のガラスを生み出す具現化系のスキルですよね」


 うんうんと言わんばかり頷く先輩。

 その後、どこか自慢げに続けようと口を開いた。


「ふふーんまだまだだね。 正解だけど実は私のスキルは———」

「魔力や放出系スキルを跳ね返せる、ですか?」

「・・・。 あれ」


 隠してた力を教えてあげよう。

 みたいなテンションだったからつい言ってしまったが、図星だったようだ。


「先輩みたいなスキルには結構ありがちですよ。 あとは水関連の具現化系でも使い方次第でこなしてる人もいるみたいですし」


 今度は先輩が頬を膨らませる。

 申し訳ないが、知識だけなら先輩にも負ける気はしないんでね。


「誰にも言ったことないのに…すごいなレオ君は」


 そう言いながら椅子を引き、背伸びをする。


「よし! じゃあそんな大大正解をしたレオ君にご褒美をあげようじゃないか!」


 突然俺の顔を覗き込む先輩。

 目が合うと笑みを浮かべ、自信満々に言い放った。


「私が稽古をつけてあげよう!」

「そういうのは間に合ってますので」

「即答?! しかも却下?!」


 彼女からしたら意外だったんだろう。

 いつもなら想像もできないほど目を丸くして驚いていた。


 本音で言えば俺だってやって欲しい。

 だが数人とはいえ実技場から声がする。

 さっきも言った通り、先輩自身ではなく周りにやいやい言われるのが嫌なんだ。


「…一区切り着いたんで、お先に失礼しますね」


 これ以上一緒にいたら何があるか分からない。

 そう思った俺は机の上の物をカバンに流し入れ、逃げるように扉の方へと向かっていく。


「あ、ちょっと待ってよ! せめて今日だけでも一緒にやらないかい? 言い方が気に入らなかったら謝るからさ!」

「本当にそういう訳じゃないので、ありがとうございました」


 ぺこり。

 去り際に軽く頭を下げ、先輩を置いたまま俺は教室を出た。



ーーー ーーー ーーー



「はぁー。 なんか申し訳ないことしちゃったな」


 先輩が気遣ってくれてる、少なくとも優しくしてくれてるのは確かだった。

 それなのに俺は自分勝手な不安から…。

 帰路を進む中、俯きながらそんなことを考える。


「あ、ちょっとそこの君」


 ふと、誰かに呼び止められた。

 近くにある魔道具商店街の客引きか。

 そう思いつつ顔を上げる。

 しかし、その先に映ったのは意外な光景だった。


「通行止め?」


 ここらでは珍しい通行止め。

 さっき声をかけて来た人も治安庁の制服を着ており、周囲を薄紫の結界が取り囲んでいる。


「何かの事件ですか?」

「詳細はお話しできません。 ですがここから先へお進みいただくことはできません」


 首を傾げ、奥の方に視線を移す。

 よく見ると住宅の中から何人もの人が慌ただしく出て行くのと、それを誘導する治安庁の姿があった。

 少なくとも何かしらの大事であることには違いない。

 こういうのには首を突っ込まない方が無難だからな。


「分かりました」


 軽くお辞儀をして回れ右。

 少し遠いが迂回ルートを進もうとしたその時、


「退避ー!!!!」


 ———ドゴーン!!!

 俺の背から聞こえてくる耳をつんざくほどの大声、そしてそれと同時になる轟音。


 思わず振り返る。

 だがその光景は数秒前のものとは全くの別物になっていた。


 辺り一帯を粉塵が取り囲み、いくつもの建物の上部が“切り落とされていた”。


「どうなってんだよあれ…」


 呆然と立ち尽くすしかできない。

 目の前にいた治安庁の男も、震えて頬に汗を浮かべている。

 その時、


 ———コツン。 ———コツン。

 茶色く濁る煙の中から何者かの足音が迫って来た。

 そして見えてくる。

 黒い衣装に身を包み、その手に“生首”を持った男の姿が。

<キャラ紹介>

 個体名:ネイル

 階 級:B級(A級昇格審査中)

 所 属:王都四聖学園

 スキル:《緋硝子《ひがらす》》


◯スキルについて

 緋色のガラスを生み出す具現化系のスキル。 切断、盾、反射など攻守ともに優れており、魔力を込めることでさらに強化することもできる。


◯レオとの関係

 一つ上の先輩。 他の生徒と違い優しく接してくれるため、レオもできることなら仲良くしたいと思っている。 本編だと割と冷たくされてる印象だが、本人は気にしていないらしい。

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