プロローグ
アステル王国の辺境の街。
周りは山か畑か草原、はたまたどこまで繋がってるかもわからない森林で埋め尽くされている。
“戦士の王国”なんて呼ばれてる国とは思えないほど平和なこの街で、俺とミクは育った。
「レ〜オ〜!」
まだ幼かった頃。
静かな平原でうずくまる俺に、ミクはよく声をかけてくれていた。
「何してるの?」
「別に…。 何も…」
何もなくはない。
「あーわかった! またスキルでいじめられたでしょー」
彼女の言葉に俺は静かに頷く。
俺は、このぐらいの時からよく周りに笑われていた。
スキル。
それはこの世界で一部の人間にしか発現しない力。
内容は基本人それぞれだが、魔力だけではなし得ない様々なことができるようになる。
物を生み出し、人を癒し、空を飛んだり。
だが、俺のはそんな便利な物じゃなかった。
「いいじゃん別に! スキル持ってること自体珍しいんだよ? 私だって持ってないもん!」
「ミクはまだ調べてないじゃん…」
ミクは慰めてくれてるが、多分他の人が聞いたら全員呆れるだろう。
俺のスキル《笑う戦士》は受けた痛みに比例して自身を鼓舞するスキル。
どんだけやられても相手に向かっていけるスキルって感じだと思う。
けど、それだけなんだ。
痛みを還元するわけじゃないからダメージは残るし、相手に向かうったって覚悟決まってる奴ならそれぐらいできる。
スキルとして意味がない、そうやって笑われ続けていた。
そんな俺に、彼女はいつも優しくしてくれたんだ。
「もーしょぼくれてないでさ! 一緒にあそぼ!」
「うわぁ、ちょっと待ってミク!」
無理やり手を引っ張って、ミクは俺を起こしてくれた。
あの時の笑顔、手の感触、締め付けられた心が和らいだような、そんな気がした。
いつまでも一緒にいたい。
どんなことがあっても、こんな俺にできるなら彼女を守り続けたい。
こんな平和な日々が一生続くんだと、そう思っていた。
しかし、事件は起こる。
あの日から然程日の経たないうち、彼女のスキル判定が行われた。
「う、嘘だろ…!」
「こんな小さな子がなんで………」
結果、スキル持ち。
しかもこの世で唯一、“継承”されてきた《女神の加護》というスキルだった。
それは大昔、魔物から人類を守るために命を捧げた初代聖女の力。
大陸中を自分の魔力で多い、魔物の発生を封じ込める結界を作った。
しかしその代償で若くして寿命を迎えることになる。
そんな初代聖女は死に際、人類を想い自分のスキルを“継承式”に整え、代々選ばれた者たちに受け継がせてきた。
自分の跡を追わないよう、力を四つに分けて。
やがて大陸に同じスキルを持つ四人の“聖女”が現れる。
そして今世代、ミクはスキルによって聖女に選ばれてしまったのだ。
「私、どうなっちゃうの…」
いつものあの平原で、その日だけはミクがうずくまっていた。
手を置いた彼女の肩は小刻みに震え、溢れる感情を押し込めようと必死だった。
「…嫌なの?」
「嫌だよ!!」
彼女の荒げた声。
初めて聞いた気がする。
「なんで私なの。 まだ五歳だよ? やりたいこともしりたいこともまだまだたくさん……。 それにレオと離れたくない!!」
突然、彼女は俺に抱きつく。
息ができないほど強く、溢れる涙を堪えながら。
「逃げよう。 俺もミクの方が大事だ。 世界の安寧とかなんかよく分かんないし、ミクが強制されるなんておかしいよ」
しばらく経ち、彼女はうんっと頷いた。
今度は俺が彼女を助けなくちゃ。
その一心でミクの手を引っ張り、深い深い森の先へと走る。
けど無理だった。
「何してんだぁガキんちょ」
視界が悪かったこともあり、誰かの足にぶつかった。
丸太のように太い、男の足だ。
「ごめんなさい。 ごめんな…さ…」
謝りながら見上げる俺。
その先にいたのは筋骨隆々の大男。
後ろには白い制服を纏った大勢の人々が列を成している。
そして一番目を引いたのは彼の胸に光る紋章。
国の直属組織“王国治安庁”、その中で国ではなく聖女の住む聖域を守る任を与えられた“聖衛”の証だった。
運悪く、ミクを迎えに来た彼らと鉢合わせてしまったのだ。
「逃げろ!!」
ミクの手を離し、その大男に向かって走り出す。
だが男は俺に目もくれなかった。
「おいおいガキに怪我させたかねぇんだよ」
真っ直ぐミクへ向かっていく男。
その足にしがみつこうとするも、控えていた奴に抑えられる。
「乱暴すんじゃねぇぞ。 手でも握っておいてやれや」
結局捕まった。
俺も、美久も。
彼らは街へ向かい領主と手続きを済ませる。
それが終わるまでが、俺とミクの最後の時間だった。
「ぐすん…。 いぎだぐないよ…」
強く手を握るミク。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、彼女は真っ直ぐ俺の目を見つめている。
なのに俺は、何もできなかった。
「…気乗りしねぇなぁ」
愚痴を漏らしながら男が帰ってきた。
それを見た彼女の手に、一層力がこもる。
「悪いが人類のためなんだ。 聞き分けてくれよなぁ」
意外にも無理やり引き剥がそうとしなかった。
日が昇り、夜が開け始めても。
「…もう、会えないのかな………」
少し落ち着いてきたミク。
絞り出したような声で、俺に問いかける。
そんな彼女に、俺は自分の服のボタンをちぎって握らせた。
「会える。 会いに行くよ。 何があっても絶対に」
子供ながらに分かっていた。
彼女は連れて行かれるし、それがみんなのためにもなると。
だから俺は俺の元に止めるより、自分が彼女の元へ行こうと決めたのだ。
それからしばらくして彼女も俺の手を離した。
渡したボタンだけを胸に、男の跡を追う。
俺はその背中を見つめながらもう一度心に誓った。
絶対に彼女を守る。
守れるぐらい強くなって、彼女の側に立って見せると。
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今後の後書きでは物語の詳細設定やキャラ設定を出していく予定です。




