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彼らは歌う自分のために  作者: 高月水都


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(参った……)

 とぼとぼと歩く姿は四本足。


 久方ぶりの四本足だ。


(服がない。人間になれない)

 服を持ってくるのを忘れていたので犬の姿のままで過ごさないといけない。だが、自分は大型犬。このまま街をさまよっていると周りが怯える。


(どうすればいい……)

 痛恨のミスだ。こんなの今までなかったのに。


 いや、人間の姿から犬になったのも久しぶり過ぎたからこんな初歩的なミスをしたともいえるが……。


 迷って、困って、しばらく考えて……。


 人気のない場所にまず移動をして、


 うぉぉぉぉん

 大きく吠える。


 それからしばらく待っていた。待つ。

 ぴくっ

 耳がこちらに向かってくる音を拾う。


「リューちゃん!!」

 こっちに向かってくる声。


 案じる匂い。

 ユゼルだ。


「びっくりしたよ~。いきなり、リューちゃんの遠吠えが聞こえて、何かあったのかと思ったら……」

 ユゼルには犬の姿の時は言葉は通じない。こっちもユゼルが猫の時の言葉は一切理解できない。なのにユゼルの手には着替え用の服がある。


「ああ。これ。カラクレナイから借りたんだ」

 お礼はカラクレナイに言ってよねと言うのを聞きつつ、人の姿に戻り、服を纏う。


「………………よく分かったな」

 ユゼルなら自分の声を聞き付けて来てくれると思ったが、それでも服がないと気付くのに時間が掛かるから人間の姿になれるのはもう少し後だと思っていた。


「だって~」

 しゃがみ込んでこちらを見つめる青い瞳。楽しげに笑いながら、

「リューちゃんが人間の姿になるのはよっぽどのことだと思ってさ~。そんな状態で服を用意できないでしょ~」

 見透かされている。


「…………………そんなことないとは思わなかったのか」

「思わないよ。だって、俺はリューちゃんとの付き合い長いからね」

「……………家出していたくせに生意気だな」

「うっ。それを言われると辛い」

 胸を押さえているユゼルを見て、つい笑ってしまう。


「リューちゃん!! 笑うなんてひどいっ!!」

「仕方ないだろう」

 お前が笑わせてくるからだ。

 責任を擦り付けると頬を膨らませてくる。


 ああ、やっぱりいい。

 ユゼルの側は安心できる。


 居心地がいい。


「自分は………なんで【完璧な人間】を目指していたのか思い出したよ」

「リューちゃん…………?」

「自分は【完璧な人間】になれれば、ユゼルとずっといていいと思ったんだ。ユゼルをたまたま気に入った主君が気まぐれで自分を助けた。自分は【完璧な人間】にならないといつ捨てられてユゼルと離されるか分からないと不安だったんだ」

 本末転倒というのだったか。目的のための手段で大事なユゼルを不安にさせて傷付けて……離れてしまった。


「何やって居たんだろうな…………」

 自嘲気に呟くと。


「――それを知るための時間だと思えばいいんじゃないのか」

 カラクレナイがユゼルの後ろから現れる。そして、カラクレナイの背中に背負われているのはギンネズ。 


「カラクレナイ……?」

「どうしたの? なんか、すぐに去って行っちゃいそうな格好で」

 今にも旅に出そうな雰囲気だ。


「ああ。本当はもっと長居するつもりだったけど、そろそろ限界だ」

 カラクレナイの言葉と共に感じられたのは魔力の流れ。


「伏せろ!!」

 とっさに叫んだと同時に、何かが通り過ぎていく気配。


「安易に遠吠えで呼ぶものじゃないよ。君はやはり【完璧な人間】とは程遠い」

 淡々と告げる声。


「…………主君」

「リューステイン。お前は期待を裏切ったけど、家出をしてしまうほど【完璧な人間】のユゼルの場所だけではなく。群青のお気に入りの【完璧な人間】を見せてくれるなんてよくやったね」

 褒め言葉だが、その褒め言葉は正直嬉しく感じない。


「………」

 どう動けばいい。


 どう動けば……。


(カラクレナイとギンネズを。ユゼルを逃がせれるだろうか)

 自分の失態だ。ならばこそ彼らを逃がさないと。


 ――自分の全力を持って。



 

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