表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼らは歌う自分のために  作者: 高月水都


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

15

「お帰りデス。遅かったデス」

 出迎えてくるのは鳥姿のセッテアール。


「………ただいま」

 返事をするとセッテアールは困ったように首を傾げ、人間の姿になる。


「どうした?」

「…………おかしいデス。いつもなら鳥の姿で出迎えると叱ったデス」

「………そう、だったか?」

「はいデス」

「……………」

 思い出せない。


「いつもはリューステインくんが【完璧な人間】らしくないと叱ってきて、ユゼルくんが窘めてくれて……」

 言いかけて止まる。


 行方不明のユゼルの話は言ってはいけないものだと思ったのだろう。慌てて口をふさぐさまに、際ほど会ってきたということも出来ないので黙っている。


「怒らないのデス?」

 恐る恐る尋ねてくるのを見ながら。


「なあ、セッテアール」

「はいデス!?」

 叱られるかとびくびくしているセッテアールに、

「お前は何のために【完璧な人間】になろうとしているんだ?」

 気にも留めていなかった。【完璧な人間】になるのは【当たり前】でそれを目指さない理由もなかったから尋ねようとも思ったことなかった。


「…………笑わないで欲しいデス」

「笑わないさ」

 笑う理由もない。


「ご主人様に褒めてほしかったからデス」

 ご主人様。


「もともとご主人様の気まぐれで飼われていた鳥だったデス。たぶん、何かの実験の。実験動物で最初から死ぬことを覚悟していたデス。だけど……」

 なんらかの気まぐれで助けられた命。


「ならば、ご主人様の次の【実験】に付き合ってもいいかと思ったデス」

 そこに他意はない。純粋に慕う気持ちだけ。


「そうか……」

 リューステインを助けたいから【完璧な人間】になろうとしたユゼル。

 主君に助けられたから【完璧な人間】を目指す自分。


 自分達にはない。主君を想う気持ちがそこにある。


「そっか……」

「でも、難しいデス。人間をどれだけ見ても正解がないデス」

「そうだな。【正解がない】」

 それが正解なんだろう。


 それに今更気付いた。


「じゃあ、どうするデス? これでは【完璧な人間】は……」

「――簡単だよ。所帯を持てばいい」

 内側のドアが開き、現れたのは主君。


「主君……」

「所帯を持たないなら百歩譲って子供を作るでもいいよ。人間の子供が出来るのなら成功だろうし」

 人間と人間のふりをした【完璧な人間】の間に子供が出来れば確かにそれは人間だろう。だけど、

「生まれる子供はどうするのですか……?」

 そんな実験のために作られた子供。


「んっ? 母親が面倒みるんじゃない?」

 そんなものでしょうと告げるが、

「子どもを作って、勝手に育てろって、人間じゃないデス!!」

 それは勝手だとさすがのセッテア-ルが告げる。


「何か問題でも?」

 だが、主君には通じない。


 ばりんっ

(ああ。駄目だ)

 何かの壊れた音が遠くで聞こえた気がする。


 ずっと、命を救われた恩義で彼の目指す【完璧な人間】になろうと思った。慣れない仕事をして、人間関係に困って、何度もクビになった。

 どうして、彼らは【完璧な人間】ではないのかと仕事先の人間の罵った。


 だけど、ユゼルが居なくなって、カラクレナイに会って、魔術師の集まりに参加して……自分がおかしいと思えた。


 何処にも完璧などないのに。


「無理、です……」

 断るための言葉一つ一つ紡ぐことに勇気がいる。言葉一つ一つに無駄に力を込めていた気がする。


「それはできません」

「――やれ。と命じているんだよ」

 主君の目が妙に明るい。魔力が集うような……。


 とっさにドアを開けて外に出たのは野生の本能。あのままでいたら危険だという内なる声。


 犬の本能を捨てて【完璧な人間】を目指していたら動けなかっただろう感覚。


 逃げるには、人の足では追いつかれる。

 そんなことを感じていたのだろうか。気が付いたら人の姿を取っておらず犬の姿になっていた。


 使い魔になって以来一度も取っていなかった犬の姿――。


(こんな姿だったんだな……)

 窓ガラスに映る姿を見て思う。


 ずっと忘れていた犬の姿。


 真っ白の毛並み。

 黒い目。


 大型の犬……。


(これでは人間に怯えられるな)

 そう思って人の姿に戻ろうとするがうまくいかない。


 今まで人間の姿を取り続けてきた弊害だろう。変化する方法を思い出せなくなっている。


(参ったな………)

 この格好でうろうろするわけにはいかない。どこかに隠れていないと――。


主君(あの人)が追いかけてくる可能性もあるからな……)

 いつの間にか今まで主君と崇めていた存在を崇めていない自分に驚き、その驚きも納得に変化していく。


 たぶん、見ないふりをしていたのだろう。盲目的に主君だからと崇めていた。


 でも、それをし続ける存在は【完璧な人間】ではなく、ただの人形だ。


 誰かの言うことばかり聞こうとする存在では、どちらにしてもいつかは破綻していただろう。


 客観的に自分を見ているとそんなことにも気付けた。


 気付くのが遅かったかもしれない。

(いや、違うか)

 必要なのはここからどう態勢を取り戻すか。


 生きている間は遅いはない。それを野生で学んできたのだから……。


(人間になってよかったな。そんな当たり前に気づけたのだから)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ