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彼らは歌う自分のために  作者: 高月水都


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「お前のことはユゼルから聞いているよ。大事な家族だとな」

 ユゼルの名前が出てきたことになんでだろうか不快感がする。まるでユゼルを理解しているような言い方で自分の方がユゼルを知っていると怒鳴りたくなるのを必死に堪える。


「どこに連れて行くつもりだ?」

 手を掴まれたまま。逃がさないとばかりの態度にも苛立ちは募る。なんで知らないおと……得体のしれない生き物ですらなさそうなこいつと手を繋がないといけないのだ。


 男と言いかけたが、男とか女でもなさそうだと判断する。


「あっ、手を繋いだままだったな。痛かったか?」

「そういう問題ではない」

 時折、変なものを見る視線を向けられているのに全く動じていないな。


 さっきなんか、子どもがこっちを指差して、

「あのお兄ちゃんも迷子になるから手を繋いでいるのかな~?」

「しっ。見ちゃ駄目よ」

 と母親に注意されているのもばっちり聞こえていたんだぞ。


「そうか。痛くないのならいいか」

 いまだに手を繋いでいるが、痛くないのなら手を離さないつもりか。


「いや、離せ」

 何とか無理やり引き離すと、

「あっ。ああ……そうか……大人同士が手を繋ぐのは【恥じらいがない】だったな」

「それ以前に、同性同士は子供以外手を繋がない」

 それが、【完璧な人間】と言いかけて止まった。


 つい、いつもの習慣で言い掛けたが、こいつはユゼルではない。それに……。


(こいつは【男性】でもなかった…………)

 分かるのはカラクレナイという名前で【完璧な人間】としてつくられた存在――。


「――お前。何者なんだ?」

 それ以外は、まだこいつのことを知らない。


「それも説明する」

 もう手を繋がない。こちらが逃げる気がないのを察したのと手を繋ぐ行為が【恥ずかしいこと】と判断したからだろう。


 人気のない場所として案内されるのは、巷で有名………というがユゼルが仕入れた情報だったので知っていたという方が正しい。とあるアパート。


「幽霊が出ると噂になっていた……」

「ああ。もう出ないぞ。――俺が喰ったから」

 天気の話をするような気軽な雰囲気で告げて外に出ていく。


「………………はあっ⁉」

 階段を上がっていくそいつの後ろ姿を追いかけながら、

「喰った!? 喰ったって、おいっ⁉ 幽霊だぞっ!!」 

 何を言っているんだ。


 冗談でも笑えない……いや、そもそも冗談が通じないの性格だが、それにしてもあり得なさすぎる。その手の怪異は普通にいる……いや、ユゼルは元は猫だから感じるのだが、そう言うのは専門職が対応しないといけないとかで主君も(自分に)がいがないから放置しておくという感じだったのだ。


「――だから、喰ったんだ」

「………………」

 ユゼルから聞いた幽霊は、とある部屋で首をくくって死んだ住民。それがかなり性質の悪い悪霊になっていてあとから来た住民を呪い殺していって、最近では近隣の住民も呪いだしたとか。


 かなり性質悪いから近付いちゃ駄目だよと教えてくれて、主君も珍しくその場にいて、

『そんなに強力な悪霊なら死霊使いに教えれば面白いことになるかもね』

 などと反応をしていた。


 ちなみに主君はその話は一晩経ったら忘れていて、結局死霊使いに教えていなかった。


 その悪霊の住む部屋は―211号室。今、カラクレナイがドアノブに手を掛けた部屋。


「入れよ。()()()の部屋に」

 開かれたドアは、霊感などない自分でも分かるほど澄んだ……清浄な空気を宿した聖域のような場所。


 物は最小限に。窓の傍には丁重に手入れされている楽器。


「俺らの故郷では楽器の音が魔を払うと言われていてな。それだけではなくて、俺という存在は悪霊という存在を食べて力を増すんだ。――いや。……それを通して人々の関心を集めて能力を高めると言った方が正しいか」

 好きなところに座れと言われても椅子すらないのにどこに座れば……。


「ユゼルは日当たりのいいところに腰を下ろしたぞ。温かい場所を求めてな」

 カラクレナイが腰を下ろす。


 木の板の上。


「俺らの習慣に椅子はあまりなくてな。せいぜい偉い人は畳に座るとかくらいでな」

 丁重に置かれていた楽器……琵琶に手を伸ばして指で弾くように鳴らす。それだけでますます清浄な空間が出来上がってくる。


「………………」

 なれない感じで、入り口近くの壁にもたれるように腰を下ろす。地べた……ではないが、椅子を使わないで座るのは久方ぶりだ。


「さて、自己紹介だな。――俺の名前は唐紅。陰陽師……故郷近隣の国では魔術師のことを陰陽師と言うんだが、陰陽師群青によって【完璧な人間】として拾われたからくり人形の付喪神。付喪神と言っても分からないだろうが、こちらの国で言えば、モノに宿った精霊と思ってくれ」

 そこまで言うと勢い服を脱いで見せてくる。


 服の下は木目のある肌。凝視していると繋ぎ目も見える。

 蓋のような個所も見えると思ったらこちらの視線に気付いたのだろう躊躇うこともせずに蓋のような……いや、実際蓋だったそこを開くと、そこには幾つかの糸が張られている。


「先日。工場で購入した……」

「ああ。俺のようなからくりにはこういう丈夫な糸を張り換える必要性があってな。予備も含めて購入させてもらった」

 蓋を閉じて、服を整える。


「で。彼女が、俺の妻」

 服を脱ぐ際にそっと置かれていた琵琶を手に取る。


「琵琶の付喪神。銀鼠だ」

「は、じめ。まして。銀鼠。で、す」

 琵琶から聞こえる声。

 それに驚いて警戒すると。


「月の下だったら人の姿になれるけど、まだ昼間だからこの姿なんだ」

 そっと優しく守るように琵琶を抱え込み。こちらに視線を向けてくる。


「……………………」

 守ることに躊躇いのない姿。


 それはかつて自分を守ろうとしていた猫の姿の時のユゼルを彷彿させる。


「そうか……」

 よく分からない。分からないことは多い。だけど、

「大切なんだな……」

 それだけは理解できた。


崇められて大事にされると付喪神の格は上がる。悪霊を食べるのも能力向上の一環。

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