10 **視点
リューステインの視点だけで進めていこうと思ったけど、無理でした。
月が綺麗な夜。
「こういう月の日は魔力の質が高まるという理由で魔術師が集会を開くんだ」
芸人が集まる橋の欄干に腰を下ろしていたユゼルに彼が話し掛けてくる。
「ああ。だから、満月の日に集会があったんだ」
納得と呟くユゼルの頭には猫の耳。尻尾も出ている。
満月の日は猫たちも特別な日。その為本質が猫のユゼルも寛いだ格好で月を愛でているのだ。
「そんな月の光を浴び、力をつけるモノ達がいる。――俺たちもそんな始まりだろうな」
欄干の下で座り込み、琵琶の手入れをする青年。
綺麗な琵琶。刀で切られたような模様があるのがもったいないほど綺麗な色合い。銀色と言うか灰色というか不思議な色合いのその琵琶を銀鼠色だと教えてもらった。
名前もそのまま銀鼠だとか。
「俺の母国では、物に名をつけるのが当たり前の習慣で、愛情をもって接することで心を持ち、九十九を得て、付喪と化す。――神は一つというこの国の考えから異なるだろうが、どんなものでも神が宿るという考えゆえに神格を得るんだ」
愛された証。愛されたことでその愛に応えるかのように心を抱く。
「綺麗な月夜だな。銀鼠」
優しく銀鼠を拭いて手入れをしていく青年。愛を持っての接し方は猫であったユゼルから見ると毛繕いに似ているなと思える。
「駄目だよ。カラクレナイ。月も綺麗だけど、ギンネズも綺麗と言ってあげないと」
拗ねてもおかしくないよと告げると青年――カラクレナイは少し瞬きをして、
「ああ。――そうか。ここにも文化の違いがあるんだな」
一人納得したように告げると、
「――わ、たしの国。では」
銀鼠の身体が泡のように崩れて、一人の綺麗な銀鼠色の髪の女性に変化する。
「月が、キレイ。貴方を愛してます、と、いう。意味」
片言のしゃべり方なのは、人間の姿になったばかりで流ちょうにしゃべれないからだろうか。
「へぇ~。ロマンチックだね~」
意味を理解してから先ほどのカラクレナイの言葉を思い出すと、
(愛しているよ。銀鼠となるんだ~。すごいな~)
さりげない告白だ。
「そ、れに対して、返事は、”わたし。死んでもいい”に」
「死ぬなんて言うなっ!!」
力いっぱいギンネズ抱きしめるカラクレナイ。
「よかった。会えた……もう……君の魂は消えているかと……」
「ご、めんなさい。唐紅。ずっと、悲しませて……」
「いいさ。――また会えたのだから」
涙を流しているカラクレナイにそっと背中に手を回して、抱きしめ返すギンネズ。
事情を知らない人たちからすれば戸惑うだろうけど、カラクレナイからある程度事情を聞かされたユゼルは純粋に祝うことができる。
『銀鼠は所有者に刀で斬り付けられたことで魂が欠けてしまったんだ』
自分の所為で。
『付喪が再び戻るのか、そのまま消滅するのか分からない。愛を再び注げば生まれるかもしれないが、それは俺の知っている銀鼠ではないかもしれない』
それでも、信じていることしかできなかった。と――。
ずっと抱きしめ合っている二人をずっと見守っていたが、やがて、我に返ったのか、それとも周りを気にする余裕が出て来たのかそっと抱きしめる力を弱めて、こちらに視線を向けてくる。
「えっと、はじめまして? いや、ずっと一緒だから知っているかな? 改めまして、ユゼルです。――握手の挨拶はギンネズさん的に大丈夫なのかな?」
「握手は、まだ、難しい。わたしの存在。まだ、不安定。やっとあいさつ、出来る。銀鼠。です。琵琶の付喪神。こちらの国。言うと、楽器の精霊のようなもの」
「そっか。じゃあ、触れるのも駄目なんだね。気を付けるよ」
よく見るとギンネズの身体が時折、月の光で輪郭がぼやけているのが分かる。その都度、カラクレナイが触れているところから輪郭が戻っているのを見ると、カラクレナイの魔力(?)を注いで維持しているようなものなのだろう。
「ギンネズさんが、人間の形をとれるようになっただけ、駆け落ちも楽になるんじゃない?」
今までずっとカラクレナイが担いでいたのだ。これからは一緒に歩ける。
「多分、月、のある。夜だけ、まだ、そこまで回復、していない」
「そっか……」
無神経なことを言ってしまったと反省すると、
「ユゼル。感謝する。お前が銀鼠という存在を意識して視てくれたから回復が早かったんだろう。――もっと、時が必要だと思っていた」
カラクレナイの心からの感謝の言葉。そこまで言われると恥ずかしくなってしまう。ユゼルはユゼルで自分の都合で世話になっているのだ。恩も何もない。
「お礼を言われも、お相子でしょ。だからその深々と頭下げないで、ギンネズさんも止めてよっ!!」
微笑ましいという感じで笑っていないで。
「唐紅と、仲良し。友達、初め、て、なので」
「…………」
だから嬉しいと言われて流石に言葉を失ってしまう。
「友達……」
カラクレナイは呆然とオウム返しをして、
「そうか。これが友達というものなのか」
初めて気づいたという感じの満面の笑み。
「今まで、銀鼠しか深く関わっていなかったし、所有者だった者は銀鼠の件で縁を切ったからな。友達は初めてだ」
「………………そうなんだ」
初めての友達と言われて、ふと気づく。
「あれ、俺も初めての友達じゃねっ!!」
リューちゃんは家族だし、セッくんは同僚だし。主は主だし。
お店の関係者は仕事仲間だし……。
と今更なことに気付いて呆然としてしまった。
「いや、それよりもこれからのことを考えようよっ!!」
せっかくギンネズが人の身体を限定的に取れるようになったのだから。
「そうだな……しばらくはこの地にいる。群青とここを拠点にしている魔術師はそう仲良くない……というか魔術師は基本仲良くないからな。集会は自分の方が優れているという発表会にすぎない。もし、見つかってもわざわざ報告しないだろうしな」
下手に出ていった方が危険だろう。
魔術師の関係では自分よりも詳しいカラクレナイがそんな判断するのならそうなのだろう。ならば、もうしばらくお世話になろう。
自分は今何をしたいのか。正直、分からない状態だったから。




