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「リューステイン。準備はいいかい?」
「はい。主君」
魔術師たちの集会。
(結局無難なユゼルが以前用意してくれた服にしてしまった)
主君は何も言わないから服のチョイスはこれでいいのだろう。
主君の用意した転送用の魔法陣で集会に向かうとそこにはすでに多くの魔術師が集っていた。
「やあ、アニマ。それが君の作った【完璧な人間】かい?」
「ああ。いいだろう。混ぜ物」
アニマとか、混ぜ物とか意味が分からなかったが、それが魔術師同士の呼び方なのだとそこで初めて理解する。
「ふうん。確かに【完璧な人間】に見えるわね」
「動きもキレ~」
かなり高評価で逆に不安を感じる。
自分が【完璧な人間】ではないのは自分が一番理解している。この格好だってユゼルがかつて教えてくれたものをそのまま着てきただけであるし……。
自分が【完璧な人間】になるのにこだわったことでもともとの【犬】としての能力を殺していた事実に気付いてしまったのだから。
それでも喜ぶ心もあり、主君の期待に応えているのだという誇らしい気持ちも生まれていて、だからこそ、実は裏切っている事実に申し訳なく思えたり……。
(矛盾している)
これでは、どっちづかずの中途半端としか言えない。
「――いや、それだけでは【完璧な人間】と言えない」
「群青」
見たことない服に身を包んだ男性がいきなり告げてくる。
「【完璧な人間】なら、人間と交配できるだろう」
「まあ、確かに」
「人間との間に所帯を持たないとな……」
群青の言葉に同意をする面々と、
「群青。お前、以前それをして自分の作った【完璧な人間】に逃げられたんだろう」
「ああ。そう言えば、そうだな。思い出した!!」
「確か……想っている存在がいるのにそれ以外と娶れなどできないとか。言っていたとか……」
魔術師たちの言葉で群青の顔が怒りで赤く染まっていく、
「せっかく【完璧な人間】になったのに、なんでそこで人間以外を伴侶にすると言い出すんだ!!」
爆発するかのような声に、心臓が不穏な音を立てる。
「どうして、僕の言うことを聞かないんだ!! 唐紅はっ!!」
逃げた【完璧な人間】を思い出したのか怒りで暴れている群青。
その様は……。
「醜いな」
まるでこちらの心を読んだように、主君が呟く。
「【完璧な人間】を作る者が完璧からほど遠い言動をして、まるで獣のように暴れている。――あんな醜悪さを持っている者が【完璧な人間】を作れるわけない」
「…………」
「その点、僕は【完璧な人間】としてリューステインが出来上がりつつある。僕の才能はまさしく神に近いだろう」
自画自賛をしている主君はどんな言葉を求めているのか。いや、求めていないで自己陶酔しているだけなのかもしれない。
「――ああ。でも、群青の失敗は参考にさせてもらうけど。そうだね。確かに何か足りない……【完璧な人間】に程遠いと思っていたけど、【完璧な人間】に足りないものを理解できたよ」
集会に来て正解だったと呟く声。
「リューステイン。人間の番を作れ」
「主君っ⁉」
「簡単だろう。――お前が【完璧な人間】なら」
こちらを見上げ命じる声。
「あっ、違ったな。ここはきちんと人間らしく、伴侶と言うべきか……」
「伴侶……ですか……」
自分に。
番。
伴侶。
「む、無理です……」
身体が震える。心が拒む。
種族が違うからこその本能的な感覚なのか。
それとは関係ない別の理由か……。
『リューちゃん』
脳内に浮かぶのは笑ってこちらを見ているユゼルの顔。人間の時も猫の時の姿も次々と浮かんで……。
「無理です……」
自分はきっと、ユゼル以外……。
「――【完璧な人間】は愛など関係なく子供を作って、家族になれる。お前なら出来るだろう。まあ、美醜とか気になることがあるならそこは配慮してあげる」
譲歩してあげるとばかりの主君の言葉。
「主く……」
「――命令だよ」
否を言わさない響き。
自分の作り上げた【完璧な人間】が自分の望まない動きをするのを許さない君臨するものの声。
(ああ。そうか)
この方にとって自分はただの道具に過ぎない。そして、この方もまた――。
(【完璧な人間】には程遠い――)
ただ、今興味を持っている遊びが完璧な人間を作ることだというだけだ。
やっと、目が覚めた。
遅いかもしれないが……。
カラクレナイ……当初はタチアオイにするつもりだったけど、気が付くとカラクレナイに……。でも、そっちも似合うよね……。




