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『大盗賊ダイ』  作者: 提灯屋
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そんな時が流れている


「しかし、院生の件まで判事卿がご配慮されるとは驚きです」

「左様でしょうか。乙女たちは危うく解散の危機に直面した劇団を救った上に、不心得者の逮捕に協力など功績甚大です。その代償として時間を割かれたために門限に間に合わなかったのです」

 深々と頭を下げたペネだけど、元々小さいので効果は保証できなそうだ。


「信じ難いですが、わざわざ司法院の判事卿のお言葉なら」

「あの、小官は卿ではありませんので」

 貴族の地位にはないと念を押したペネ。


「それがお望みならば」

「感謝します」

 またしてもペコリと頭をさげるペネ。


「ところで、今回の事件の当事者からの依頼。いえ懇願を承っております」

「はい。しかし当院の子供たちが度々大人の事情に関わるのは好ましくないのですが」

「ご返答は依頼の事案を確認の上お願いします」

 ペネは、鷲と白鳥一座が仕組まれた食あたりで大量の欠員が発生していること。

 また、観客動員数を稼ぐ必要があり、休演が難しい事情であること。

 昨日、マーサが見事に主役の代役を果たしたので、座長のズィロから最低でも今回の公演の三日間だけでも出演を要望。可能ならば、定期的に舞台にあげて欲しい要望があると伝えた。



「個人的な感想ですけど、猫の足跡団の皆さんの歌唱力はなかなかでした。普段から神への感謝と奉仕の賜物です。卒院後の就職としても、考えるのも悪くないのではないでしょうか。鷲と白鳥一座は、国王陛下御覧の由緒を賜っております」

 この場合のご覧は、展覧と同じ価値がある。

 ペネは旧知の『鷲と白鳥一座』は、決して卑猥だけを売り物にする芸人ではないと弁護した。それくらい、まだまだ芝居と関係者の地位は危なっかしいものだった。


「ですけど、勤労修道院生として恥ずかしい演目ではないでようか。舎監で多忙な身ですけど、鷲と白鳥一座は男女の色沙汰のお芝居が多いと噂されております」

「まあ当世風でしょうか。寓話劇や道徳劇を専科にしてはいません。あ、あの」

 カノッサの鉄門を挟んで立ち話をしている。

 当然のようにペネの背後にテオ以下の猫の足跡団とパウロも整列していた。つまり立ちっ放しだ。


「乙女たちを修道院内に招き入れては頂けませんか?」

「しかし」

 司法院が関係したにしても外泊は外泊。しかも恋愛劇に出演した。


「舎監として娘さんたちを預かる身としては、このまま院内に通すのは」

「んだけんどさ」

 にょにょにょ。

 パウロの巨体が姉と舎監に影を落とした。


「小娘さんたちが立ったままは可哀想だへ。入れてくんろ」

「貴方は先日も」

 繰り返すけどペネ・パウロの訪問は二度目だ。


「んだな」

 にんまりするパウロ。


「承知しました。預かっている立場でありながら子供に配慮が足りませんでしたね。テオ、|《白ひげ》マーサ、《だんご》エリー、|《鼻高》イリス、|《魔術師》サラ。御免なさいね」

 団員同士は暗号名を使っているけど、舎監は本名で名指しするのだ


「「舎監」」」

 お辞儀合戦。


「んじゃ。開けるだな」

「承知しました、さ。お入りなさい」

 修道女服。通称テオたちはシスタースタイルで、舎監も似た服装。ペネ姉弟も判事だからデザインは違うけど真っ黒。

 黒い集団が頭を下げたり、ゾロゾロ動いている。


「テオ、宜しいですか」

 猫の足跡団が総員院内に復帰した途端。一番の問題児を呼び止める。


「司法院のお客様にお水を運んでくだるように、そうそう『牛の羽根隊』の誰かに伝えてください」

 『牛の羽根隊』。『猫の足跡団』と並ぶ、カノッサ勤労女子修道院の院外グループの名前、符牒・暗号名なのだ。人数もカノッサに放り込まれた事情の、それぞれほぼ同類のグループだった。

 そんな二つのグループの一つでテオがリーダーの猫の足跡団が不良少女のカツアゲ部隊に堕ちていたのは、くどいほど説明している。


かしこまりました舎監」

 まるでお嬢様の挨拶のように修道女服の裾を摘んでお辞儀をするテオ。怖い人には、従順らしい。


「おや、お気ずかいなく」

「いえ。正直即答できない内容ですから。本心では」

 咳払いする舎監。


「断りたいのですけど、院生の気持ちも無下にしては拙いだろうと」

「それはそれは。私事ですが、このズィロ座長とは旧知の仲でして、お話しを聞き届けて頂くだけでも感謝致します」

「では、再度お話しをお願いします」

「はい」

 そんな時が流れている。




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