目的地は王都だ
その一方で。
「頭」
パンチ。
「頭ったら、ひどい」
ふくれっ面でシャツの裾を引っ張られる。
「わかったからさ、そんな怒るなよミカ」
マーサと別れたダイには、まだひと波乱あった。
「どうしてミカはひとりなの」
「一人じゃないだろ。パーシーだってカーちゃんだっているじゃないか」
パーシー、正確にはグアンテレーテ・パーシバル。アーネスト中尉の一人っ子だ。で、カーちゃんは、その母親のカトリーヌさん。
「頭楽しそうだもん。ミカはさびしいもん」
両親がいないダイとミカのカナーノ兄妹にとってグアンテレーテ一家は第二の家族以上の存在なんだ。だから、ダイも安心して預けられる。
「悪かったよ」
この剣幕では、妹にマーちゃんとの大イベントがあった自慢話は後回しにしたほうがお利口だろうな。
「悪かったってば」
「ぶーー」
もちろんダイが本気で逃走すれば、妹の鉄拳。じゃないな、ソフトパンチから離脱も楽チンだ。でも脚力の違いを誇示したら余計妹が悔しがるから。
「今度王都に行く時は一緒だから」
「ぶーー」
「あーー髪引っ張りは反則だってば」
いつもなら、この辺で脇の下でもくすぐってもみ合いになって有耶無耶する。でも、ソロソロそんな誤魔化しはミカも通用しないくらい成長している。
「連れてって連れてって、今すぐ連れてって」
「わかったよぉ」
ダイは子供だ。だから、ミカを説得する能力は充分じゃないし遊ぶ方に選択は偏る。
「じゃあ、祖父ちゃん祖母ちゃんに一声かけたら出発だ」
「わーーい、頭だいすきーーー」
お勤めとかはもう眼中にない。
「じゃあ、今日も頼むよ、〝とうちゃん〟」
ここでのとうちゃんは、ダイの愛馬。カナーノ家には、他にもかあちゃんとおじさんもいるけど、背丈とか相性抜群なのがとうちゃんだ。
「はーーい」
小型馬のとうちゃんでも、ミカは踏み台があった方が素早く乗馬できる。最近ダイは、踏み台がなくても平気になっているけど。
「おいミカがとうちゃんじゃないだろーー」
踏み台から、ぴょんととうちゃんの鞍に載っかるミカ。以前アーちゃんことカーちゃんが二人乗りのために特製で縫ってくれた細長い敷物の鞍の上は、クッション性も良好なんだ。
「いくぞーー」
ミカの気分はもう王都の賑々(にぎにぎ)しい街並みだ。
「よし、その前に持ち物点検ーーー」
「おーーー」
水筒、携帯食料──ま、堅焼きのパンだ、応急治療セット、護身道具。
「じゃあアイテムは大丈夫だな。ミカ、座り心地はどうだ」
「いいよーーー」
とうちゃんの背でぴょんぴょん跳ねるミカ。それでも全く動じていないとうちゃん。実はもう爺ちゃん馬なんだけどね。
「あれ、頭」
「どした? 調子が悪いなら今日の」
正直ダイの活動力だと、妹はオジャマになりつつあった。また実際、マーサたちのフェーンと対決したり、反撃はなかったけどオークの巣を強襲したり舞台上で大立ち回りしてハードな活動をしている。
「ちがうよーー。これなーーにーー?」
なにがこれでどうしたのだろう。ダイは身体を捩って馬の鞍を確認する。
「ああ、これか。これは」
昨日ダイが骨子を発案して緊急代役を勤めたマーサたち、猫の足跡団のためにプロンプターまで協力した。
『王都でも名高い有名な一座、鷲と白鳥一座の三大柱のリリュから押し付けられたプレゼント』なのだ。
これを五歳のミカに完璧に実況するのはかなりの骨折りだし、またそんな楽しい──ペネやパウロ、夜警隊員が支援していなければ命の危機的状況だったし──出来事があったなんて、ミカがどれだけ羨ましがるか、悔しがるか。
「これね、そうか」
盗賊団の頭、ヒラメキました!
「ミカ、面白いお勤めをするんだよ、この石で」
「ふーーん」
面白い以前に、ミカには石の価値がサッパリだった。そりゃそうだ。ダイだって正直要らない。ダイの近所には大きい川がないからちょっとだけこのサイズの石は珍しい。でもそれだけでピカピカ綺麗でも透明でもない石。
でも、石を強引に事件解決の謝礼にしたリリュもマジ不用品扱いだった。
弟さんのパウロ込みでお世話になっているペネから間接的に渡されたから断らなかった、厄介な品物。でも、『王者の石』っ名前なんだとか。
「これを〝返すんだ〟」
「かえす? ぬすまないの?」
当然すぎる質問。
「確かにちょっと盗賊団らしくないけど、ミカよく聞いてくれよ」
天空高く右手を突き上げるダイ。盗賊団の頭だ。
「おれは今回初めて、予告でお勤めをするんだ」
「お勤め?」
ダイの盗賊団の活動は全てお勤めと自称している。誰がどんな経緯で八歳の子供に妙な知識を植え付けたかは、ナゾである。うっほんっ。
「いいか、ミカ」
ところで、ダイ妹ミカは特別に副団長とかナンバーツーとは自称も呼びかけもされていない。ダイは大盗賊を名乗れば、それだけで満足していたのだ。
「うん、なぁに、頭」
きっと楽しいことだと目をキラキラさせるミカ。
「予告のお勤めを成功させてやっと盗賊団はホンモノになれるんだ。今日はその第一歩だぞ」
「わーーーい」
これも、どっち系の知識情報なのか。
「よーーし、相手は王都有数の名前が通った歌劇一座。これはもえるぞーーー」
「頭」
ダイの視界は反転する。どうしてってミカが後ろ髪を牽引したんだ。
「だめだよ、もやしちゃ」
「その〝火〟じゃない」
「でもだめだよ、もやしちゃ。ジイちゃんバアちゃん、カーちゃんアーちゃんにおこられるよ」
ミカはマジモードで兄にお説教中です。
「わかったよ。燃やすのは〝なし〟だ」
熱意の燃やしと火炎の燃やしは違うのだけど。それは妹には通じない。折れるしかないダイ、これでも頭だ。
「うん」
イキナリ最初の一歩で躓くダイの本格的大盗賊計画だった。
「王都にいくよ」
「おーーーと」
それシャレかとツッこむ気力が沸かないダイは手綱を引いて出発を合図する。
「「それーー」」
とうちゃんと走り出したら仲良く上機嫌になる。まだお互いに一桁の幼いペアが走る。
目的地は王都だ。




