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この『アイなき世界』で僕らは  作者: 京 高
6 暗躍する者たち
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78 女王様の憂鬱

 音もなく背後から忍び寄ってきたケダモノの凶刃が私へと届く直前、不届き者は空中で束縛されていた。まあ、早い話が踏み抜いた捕縛の罠が作動して、網に絡めとられたという訳だ。


「くそっ!女王自らが囮になっていただと!?」


 はい。分かりやすい説明をどうもありがとう、不審者君。あと、その女王っていうのは止めようか。

 つんつんと杖で突いて身動きが取れないことを確認してから、『飛礫』の魔法で拳大の石を頭にぶつけて昏倒させておいた。


 え?ひどい?

 か弱い乙女を襲おうとしたケダモノにかける情けなどないわね。


「お嬢、お疲れ様です」

「今の作動のタイミング、ちょっと遅くなかった?こいつだから何とかなったけど、熟練者だと危なかったわよ」


 木陰から現れた数人の男たちのうち一人に苦言を呈す。それと、そのお嬢っていうのもやめない?

 こういった人を背後から狙うような連中は毒物を使用していると場合も多い。特に私のような初心者に毛が生えた程度の低レベルの魔法使いだと、掠っただけでもアウトになることもあるのだ。


「申し訳ありません。再度手順を確認して万が一もないように努めます」

「お願いね」

「お任せを!」


 男たちの返事がハモった。

 うん。暑苦しいわ。

 言うと泣きそうになるから我慢するけど。

 時計を見るとそれなりの時間になっていたので、今日のお仕事はこれで上がりにさせてもらおう。


 男たちに後始末を頼んで街へと向かう。なんて言っても、実はここはナウキの南の城門から出てすぐの森の中だ。街の中へは五分もかからずにたどり着くことができた。

 帝国による封鎖が続いているためか、相変わらず人が多い。どのくらいかというと、イモ洗い状態などと皮肉られていた、シーズン中の有名海水浴場やプールなどを思い浮かべてもらえればいいだろうか。


「メイプルじゃないか」


 そんな人ごみの向こうから私の名前を呼ぶ声がした。

 ちょっと!こんな人ごみの中で呼ばれたら……!


「ああっ!『女王様』!」

「え!うそ!?『お姉さま』!?」


 ああ……。ほら、騒ぎになり始めたじゃないの!


 あの大規模イベントでの『閃光』の魔法と終了間際の一言によって悪目立ちしてしまった私は、第三期スタートであるにもかかわらず有名プレイヤーの仲間入りを果たしてしまった。

 お陰で『闇ギルド』の連中には狙われるわ、自称ファンだの下僕だの名乗る連中に追いかけ回されるわと、散々な日々を送ることになった。


 特に追っかけの()たちは邪険に扱う訳にもいかないので、対応に苦慮してしまう。可愛い女の子たちばかりで目の保養になるのが救いね。

 一方、むさ苦しい男どもは容赦なく無視しているのだけど、なぜか喜ばれたりするから手に負えない。


 やっと最近は落ち着いてきたところだったのに……。


 声のした方にキッと鋭い視線を向けると、黄色い悲鳴と野太い悲鳴が得も言われぬ最低なハーモニーを奏でて、数人がその場に倒れ込んでいく。

 別におかしな技能を使ったのでもなければ、魔法を使ったのでもない。全員その場のノリで遊んでいるだけだ。


「相変わらず大人気だな」


 人々をかき分けて現れたのは、さっきまで一緒にいた男たちの上司であり、『諜報局UG』のギルド長でもあるユージロだった。


「前にも言ったけれど、私を使って不審者が紛れ込んでいないかをチェックするのは止めてくれない?」


 挨拶もそこそこに苦言を呈す。護衛についてもらっている恩はあるが、あちらも不審者を捕まえて情報を聞き出せるというメリットがある。いわばイーブンな関係なので言えることであり、そしてこれからもイーブンな関係でいるためにも言っておかなくてはいけないことだ。


「確かに今のは少々性質が悪かったな。謝罪しよう」


 素直に非を認めることができるのも、この男が頼りにされる一因だと思う。だけど、


「ユージロに頭を下げさせているぞ!?」

「さすがは『お姉さま』!」

「俺も罪を告白したい!」


 わざと周囲を煽っているのではないか、という気がしないでもない。それと最後の君は神殿にでも行きなさい。今ならきっと神殿騎士の逞しいお兄さんやおじさまが懺悔を聞いて、贖罪に協力してくれるわよ。


「ここでは目立ち過ぎるな。我々のギルドに行くか」


 断ろうかとも思ったが、ここまで目立ってしまうと、買い物も狩りもできはしないだろう。それに何より、今日捕まえた連中が何か知っていたのかどうかも気にかかる。

 彼の言葉に従い、『諜報局UG』にお邪魔することにした。


「メイプルの協力で本日捕らえた五人だが、いずれも『闇ギルド』から入会の条件として、君をPKすることを提示された新米どもだった」


 ホールの片隅にある簡易応接スペースの椅子に腰を落ち着けると、ユージロはさっそく話し始めた。


「わざわざ嫌われたり追われたり攻撃されたりするようなやつらの仲間になりたいなんていう心境が分からないわ」

「そこは、暴走族に憧れる少年の心理とかそういうものだろう」


 ああ、何にでも反抗したくなる尖った時期ということね。


「入会を餌にして下っ端のさらに下を焚き付けているってことかしら?今さらだけど、性格の悪い連中よね」

「それには同意だな。だが、『闇ギルド』自体に動きがないことが気になる」

「大規模イベントの前のように、水面下で何か企んでいると言うの?」

「企んでいるというより、帝国に接触しているのではないかとみている。強制取得させられた不利な称号を消すには、ナウキが負ける、すなわち帝国が勝利するより他はないだろうからな」


 称号『危険人物』の効果によって『神殿騎士団』や『神殿』から発見されやすくなっているらしい。さらに『闇ギルド』は警護隊から敵対視されているので、普通にナウキへと買い物に来ることすらできなくなっているという。


「このままじゃじり貧だから必死になっているってこと」


 帝国の側に付いていたと言っても、正式に手を結んだ訳ではなく、互いに利用しあう程度の関係だった。そのため、連中もまた帝国による封鎖の対象とされていたのだ。


「案外、派閥争いを煽ってそれぞれの力が削がれた隙を狙って、自分たちが帝国を牛耳ってやる。なんて大それたことを考えているのかもしれないな」

「そんな絵を描き切れそうなやつがいるの?」

「何人かは心当たりがある」


 該当者が複数いるんかい!?

 これは本腰を入れてあちらの情報を手に入れる必要があるわね。囮になるのも限界があるし、名前が売れていることを利用することも考えておくべきかもしれない。


「この際だから、うちのギルドに入ったらどうだ?」


 冗談とも本気とも取れるような口調でユージロが言う。


「やめて。私は適当自由気ままに世界を見て回りたいの」


 その目的が叶う状況になるのは、まだまだ先のことのようだけど。


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