↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男を狂わせる魅了の祝福を持つ令嬢は、野獣と恐れられる辺境伯様と三か月の仮婚約をしたら溺愛されました  作者: 紳士テニス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/58

改稿中☆50 舞踏会へ向けて

※現在、改稿作業を進めています。


第1話から順番に、改稿版へ差し替えております。

差し替えが完了した話から、こちらの前書きは外していく予定です。

物語の大筋に変更はありませんが、細かな描写や内容については、改稿前と改稿後で異なる部分があります。

「ううっ……よかったぁ……!」


 突然、別の泣き声が聞こえた。


「エマ……」

「だってぇ……! よかったですね、リリアンナ様ぁ……!」


 木陰から現れたエマが、顔をぐしゃぐしゃにして号泣している。その隣には、ガレスもいた。


 涙を拭いながら顔を上げたマリアベルが、そこで初めてガレスをまともに見る。


 見上げるほどの巨体。恐ろしい傷のある顔。


 みるみるうちにマリアベルの顔が引きつった。


「ぴゃああっ……熊!」

「え?」


 マリアベルは反射的にリリアンナの腕を引っ張り、そのまま二人まとめて近くの木の陰へ逃げ込んだ。


「はっはっは! またですかい」


 バルドが豪快に笑った。


 事情を知らないガレスは、困惑した顔で立ち尽くしていた。




 ◇◇◇




 誤解はほどなく解けた。とはいえ、マリアベルはリリアンナの後ろに半分隠れたまま、おそるおそるガレスを見上げるのが精一杯である。


「し、失礼しました……」

「いえ。……よくあることなので、お気になさらず」


 そう言うガレスの声は、わずかに沈んでいた。


「まだお二人とも、お話ししたいことがたくさんあるのでしょう。ここで立ち話もなんですし、よろしければ屋敷でお話ししませんか」


 ガレスがそう申し出て、一行は辺境伯邸へ向かうことになった。




 ◇◇◇




 応接室に落ち着いたのは、リリアンナとマリアベル、それにバルドの三人だった。エマは給仕として控えている。


 ガレスは、自分がいてはマリアベルが落ち着かないと察したらしく、「仕事がありますので」と早々に席を外した。


 そこから二人は、たくさんの話をした。


 離れてからの三年間、どこで何をして、どんなふうに過ごしていたのか。最近あった出来事や、今の暮らしのことまで。


 ぽっかりと空いてしまった時間を埋めるように、話は尽きなかった。


「そうだわ、マリアベル様。二週間後、王家主催の舞踏会がございますの。そこで、ガレス様との婚約を発表いたしますわ」

「あわわ……。すごいですね」

「ふふっ。わたくしもそう思います。……それで、もしよろしければ、マリアベル様にも来ていただけたら嬉しいのですが……」


 リリアンナはそう言ってから、少し迷うように言葉を継いだ。


「あの、でも、無理にとは申しません。人が多い場ですし、あれから夜会にもほとんど出ていないとおっしゃっていましたものね」

「いえ、行きます!」


 マリアベルはほとんど間を置かずに答えた。あまりに勢いのある声に、リリアンナが目を丸くする。


 声を張った本人も驚いたようで、マリアベルは一度肩を縮めた。それでも、言葉は引っ込めなかった。


「……こ、怖くないわけじゃないです。でも、リリアンナ様の晴れ舞台ですもの。わたし、この目で見たいです」

「マリアベル様……」


 リリアンナの胸が、じんと熱くなる。


 すると、それまで二人の話を聞いていたバルドが口を開いた。


 「なら俺から閣下に、当日は城の警備に入れないか頼んでみますよ」

「え?」

「そしたら、何かあっても俺が守れますんで」


 マリアベルが慌てて手を振った。


「そ、それは申し訳ないです! わたしのためにそんな」

「俺がそうしたいんすよ」


 あまりにもあっさり言い切るので、マリアベルは言葉を失った。


 その瞬間、給仕をしていたエマの手が止まった。


「……ほほーう」


 実に含みのある目でバルドを見る。


「まあ……!」


 リリアンナは両手を組んで、目をきらきらさせている。


「では、わたくしからもぜひガレス様にお伝えしておきますわ」

「おっ! そいつは助かります」


 バルドは何も気づかないまま、からりと笑った。




 ◇◇◇




 そこからの二週間は、めまぐるしく過ぎていった。


 王家側とは当日の段取りについて何度も打ち合わせが行われた。


 二人が王宮へ入る時刻から、婚約発表の進行、ファーストダンス、控室と移動経路、警備配置。確認すべき事項は山のようにあった。


 警備については、ガレスの希望でヴァルグレイブ家からも兵を出すことになった。バルドを含む二十名の兵士に加え、レオンも王城の警備に入る。


 同時に、招待客の選定も進む。王家側の一覧を確認しながら、ヴァルグレイブ家からも招きたい人物を伝えていく。


 中でも慎重に話し合われたのは、バーリンガム家と、これまでリリアンナの悪評を広めるうえでデボアに協力していた家々をどう扱うかだった。


 誰を招き、誰を外すのか。


 招待客の選定だけでも何度も王家側と確認を重ねることになった。


 衣装関係は、エマとフィーネが中心になって動いた。


 二人はメゾン・セシリアと辺境伯邸を何度往復したか分からない。


 リリアンナのドレスだけでなく、ガレスの衣装についても、最終調整、装飾、髪型、靴、小物、そして二人で並んだときの統一感まで、細かく詰めていく。


 リリアンナは何度も試着に呼ばれた。ガレスも、執務の途中で容赦なく引っ張り出された。


 一方、レオンと文官たちは結婚契約の詰めに追われていた。


 すでに草案は形になっており、必要な資料を確認しながら細部をすり合わせ、ルベルハルト家との間で文書を何度も往復させる。残るのは、双方が納得できる形へ仕上げていく作業だった。


 ガレスの執務机には、領地経営の書類に加えて、婚約関連の書類までうずたかく積み上がっていく。


 辺境の両親と主要家臣にも、正式婚約成立の知らせが送られた。


 王都でも辺境でも、二人の結婚へ向けた準備は着々と進んでいった。


 舞踏会まで、あと十日。


 あと一週間。


 日が経つにつれ、屋敷を行き交う人々の足取りはますます速くなっていく。


 リリアンナとガレスも同じ屋敷にいるはずなのに、落ち着いて顔を合わせる暇すらない。


 そんなある日の午後。リリアンナは談話室の長椅子に腰掛け、ようやく一息ついていた。


「ふう……」


 テーブルの上の紅茶に手を伸ばそうとしたとき、扉が開く。


「リリアンナ」


 入ってきたガレスが、リリアンナを見つけて、ほっとしたように表情を緩めた。彼も仕事の合間に、ほんの少し時間が空いたところらしい。


「ガレス様」

「少しだけ、一緒にいてもいいですか」


 その言葉に、リリアンナの胸が温かくなる。


「もちろんですわ」


 ガレスが向かいへ腰を下ろした。


 特別な話があるわけではない。ただ、同じ部屋で座っているだけで、ここ数日の慌ただしさが少しだけ遠のいたように思えた。


 しかし——。


「リリアンナ様! ドレスの最終確認です!」


 ほとんど間を置かず、エマが扉から顔を出した。


 二人は顔を見合わせ、思わず苦笑した。


「リリアンナ」

「はい」

「すべて落ち着いたら、二人だけでゆっくりしたいですね。一緒にどこかへ出掛けましょうか」


 その言葉に、リリアンナはふわりと笑った。


「ええ。楽しみにしておりますわ」


 そして、名残惜しさを抱えながら、リリアンナは談話室をあとにした。




 ◇◇◇




 そんな日々が続き、舞踏会はもう間もなくとなった。


 王宮との打ち合わせも済んだ。警備体制も決まった。衣装も仕上がりつつある。結婚契約も最終調整に入っていた。


 しかし、一つだけ。


 本格的に手をつけていないものが残っていた。




 ◇◇◇




 広い部屋の中央で、ガレスは呆然と立ち尽くしていた。


 その周囲には、幾人もの人間が倒れ伏している。


 仰向けの者。うつ伏せの者。壁際まで這って、そのまま動かなくなった者。


 ——立っているのは、ガレスただ一人だった。


 うめき声とも言えない、細い息の音があちこちから漏れている。倒れた一人が弱々しく手を伸ばし、何かを訴えようとしたまま、力尽きたように床へ落とした。


 窓から差し込む夕日が、部屋の惨状を赤く染めあげる。


 ……どうして、こうなった。


 その顔には、困惑だけが浮かんでいた。


 しばらくして、ガレスは途方に暮れたように呟いた。


「……俺は、ただ踊ろうとしただけなのですが」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。